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焦点:米市場に忍び寄るスタグフレーション懸念、貿易戦争や関税が影

2025年02月20日(木)18時39分

 1月20日、市場はトランプ米大統領の成長促進政策になお楽観的だが、根強いインフレとトランプ氏の強硬な貿易政策により、1970年代に米国を悩ませた低成長・高インフレ、いわゆる「スタグフレーション」懸念が再燃している。ニューヨーク・マンハッタンのスーパーで2022年6月撮影(2025年 ロイター/Andrew Kelly)

Suzanne McGee Davide Barbuscia

[20日 ロイター] - 市場はトランプ米大統領の成長促進政策になお楽観的だが、根強いインフレとトランプ氏の強硬な貿易政策により、1970年代に米国を悩ませた低成長・高インフレ、いわゆる「スタグフレーション」懸念が再燃している。

スタグフレーションの再来の可能性は過去50年間にも定期的に浮上したが、投資家のポートフォリオに対する実際の脅威としては顕在化していない。今回は違うとはまだ言い切れないものの、貿易戦争や懲罰的関税の可能性が米国の成長に影を落とす中、この恐ろしいシナリオはここ数週間、主要なリスクとして再び忍び寄っている。

ブランディワイン・グローバルの債券戦略ポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は「インフレが長引き、連邦準備理事会(FRB)の政策余地が制限される一方で、消費者需要を損ないかねない政策が打ち出され、スタグフレーションの可能性が確実に再浮上した。もはや可能性ゼロのシナリオではない」と警告した。

1月の米消費者物価指数(CPI)は前年比3.0%上昇。前月比では0.5%上昇し、2023年8月以来、約1年半ぶりの大幅な伸びを記録した。スタグフレーションを構成する重要なピースである高インフレ率の定着が裏付けられた。もう一つのピースである経済成長率も、関税がインフレ圧力を高める中、危うい状況にある。

イノベーター・キャピタル・マネジメントのチーフ投資ストラテジスト、ティム・アーバノウィッツ氏は「われわれが引き続き懸念しているのはインフレリスクよりもスタグフレーションだ。高インフレという根強い問題に加えて、関税は消費者への課税となり、利益と経済成長を圧迫することで経済を減速させかねない」と指摘した。

バンク・オブ・アメリカが18日に世界のファンドマネジャーを対象に行った調査によると、向こう1年間にスタグフレーション(同行の定義では成長率がトレンドを下回り、インフレ率がトレンドを上回る状態)を予想する投資家の割合が7カ月ぶりの高水準に達した。ただし同時に、投資家は株式に対して依然として強気な姿勢を維持しているほか、貿易戦争については発生確率が低いリスクとみられていることも調査で明らかになった。

トランプ大統領は2月初めにカナダとメキシコからの輸入品への新たな関税の導入を1カ月延期したが、一方で中国からの全輸入品に新たに10%の関税を導入、世界の鉄鋼とアルミニウムの輸入に関税を課すと発表した。

トランプ大統領はまた、米国からの輸入品に課税している全ての国に対して相互関税を課す計画を立案するよう経済チームに指示。今週には、自動車、半導体、医薬品の輸入に25%の関税を導入する計画を打ち出した。

一部の投資家は、関税による経済成長への打撃は一時的なものだと考えている。

キャピタル・グループの資産クラスサービス責任者マディ・デスナー氏は、長期的には関税が成長を促し、世界的な競争の減少から恩恵を受ける産業を後押しする可能性もあると述べた。一方、関税の初期の影響は価格圧力を強める可能性があり、「実際、おそらくこの2つの間のどこかになるだろう」と指摘。キャピタル・グループが20年後の10年国債利回り予想を昨年の予想の3.7%から3.9%に引き上げた理由の一部は関税だと説明した。

<スタグフレーションリスク、評価分かれる>

スタグフレーションは、インフレ率が急上昇し、株価と債券価格が急落した22年にも不安の源として浮上したが、インフレが最終的に緩和し、成長が堅調に推移したことから、そのシナリオは現実にはならなかった。

米経済が再びスタグフレーションを免れると信じる向きは多い。

現在のコアインフレ率は約3%で、年平均で7%前後だった1970年代の水準をはるかに下回っている。エバーコアISIは最近のリポートの中で、今回はインフレ期待が「固定」されていると指摘した。

それでも、ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は、市場はスタグフレーションのリスクを過小評価している可能性があると警告する。トランプ氏の選挙公約の一つである、査証(ビザ)やその他の書類を持たない労働者の大規模な強制送還の可能性も、インフレを加速させるだろうとの見方を示している。

「関税と(移民の)国外追放はインフレ高進を招き、経済成長を阻害する。どちらもマイナスの供給ショックだ」と指摘し、原油価格高騰などが1970年代のスタグフレーションの一因になったことに言及した。

BNPパリバの米金利戦略責任者グニート・ディングラ氏は、市場は過去6カ月間、トランプ氏の成長促進政策を重視して「油断してきた」と述べた。その上で、スタグフレーションを警戒する投資家は、インフレ上昇で価値が下がる可能性が高い2年国債を売り、低成長シナリオで恩恵を受ける10年国債を買う可能性があるとした。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのSPDRアメリカズ調査責任者、マシュー・バルトリーニ氏は、スタグフレーション環境でも価値を維持する数少ない資産の一つである金への関心の高まりは一部投資家の懸念を示しているとの見方を示した。金価格は19日、過去最高値を更新した。

前述のブランディワインのマッキンタイア氏は、もう一つの大きな勝者は現金だろうと述べたが、「まだそこまでには至っていない」ため、今のところは現金のような固定利付商品への大きなシフトは控えていると述べた。

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