アングル:洋上風力発電業界に大逆風、トランプ政策受け計画変更相次ぐ
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FILE PHOTO: A crane hangs over the first jacket support structure installed to support a turbine for a wind farm in the waters of the Atlantic Ocean off Block Island, Rhode Island July 27, 2015. REUTERS/Brian Snyder/File Photo
Nichola Groom
[13日 ロイター] - 米国の洋上風力発電に関連したインフラと供給網に対する投資を予定していた企業各社が、計画を撤回しつつある。トランプ米大統領が連邦政府による支援を廃止する姿勢を示していることを含め、プロジェクトが強い逆風にさらされているからだ。
米国の洋上風力発電産業はこの2年、急激な減速に陥っている。多くのプロジェクトで長期にわたる遅れやコスト増大が生じ、計画中止に至った例さえある。期待されていた数千人の雇用や数十億ドルの投資に影響が及びかねない状況だ。
洋上風力発電の業界団体オーシャンティックでマーケテイング・広報担当シニアバイスプレジデントを務めるステファニー・フランクール氏は、「プロジェクトがまったく頓挫してしまえば、影響は特定の州にとどまらず、全国的なサプライチェーンに波及する」と語った。
2022年には、市場調査会社4Cオフショアが、米国市場ではバイデン前大統領が掲げた「2030年の時点で30ギガワットの洋上風力発電所を建設」という目標を上回るとの予測を発表していた。だが同社は昨年予想を修正し、30年時点での導入規模は25ギガワットに届かないとしている。
ニュージャージー州の本格的な洋上風力発電用港湾は、米国東海岸における風力発電産業の拡張に向けた最初の拠点になるという触れ込みだったが、用途が変更されることになった。洋上風力発電を支援する新規造船に向けた数十億ドルの契約は立ち消えとなり、メーカーも計画を撤回している。公式発表の他、企業幹部や業界団体関係者、州政府当局者10人に対するロイターの取材で明らかになった。
洋上風力発電はかつてクリーンエネルギー分野における有望な成長分野と考えられていた。だがコスト急騰による打撃に加え、最近ではトランプ政権が、連邦政府管理地の貸与や許認可、補助金などの形による支援策を打ち切るとの展望が追い討ちとなっている。
トランプ氏は1月、洋上風力発電事業向けの連邦政府管理地の貸与を停止する大統領令に署名し、風力発電用タービンについて、「景観を害し、高コストであり、野生生物にとって有害だ」と評した。
トランプ大統領は地球温暖化をでっちあげだと称し、すでに過去最高の水準にある米国の石油・天然ガス生産を最大化することに政策を集中させると約束した。また、バイデン前大統領が気候変動対策に振り向けた公共支出を削減すると宣言している。
<船舶、港湾、ケーブル>
オーシャンティックでは、造船産業では洋上風力発電向け船舶の受注が急減しており、造船産業にとどまらず、国内鉄鋼メーカーにも影響が及ぶ可能性があるとしている。
オーシャンティックによれば、造船産業は過去10年のあいだに総額で約20億ドル相当の受注を獲得した。内容は、洋上風力発電タービンの建設やスタッフ・補給品の運搬に用いる数十隻の船舶だ。
このうち約15億ドルは建造中か着工待ちの状態にある。だが2024年の船舶の注文はわずか1隻にとどまった。洋上風力発電産業向けの船舶の建造や改修は、13州にわたる20カ所以上の造船所が担っている。
オーシャンティックのフランクール氏は、「中西部一帯の造船会社や鉄鋼メーカーは、受注増を当て込んで工場を拡張していたのに、期待していた取引を失ってしまった。小規模メーカーは空白の受注一覧表を前に途方に暮れている」と話す。
ニュージャージー州経済開発庁は今月、セーラム郡に建設予定だった洋上風力発電支援に特化した港湾について、代替用途の検討を急いでいると述べ、一因として連邦政府の方針変更に触れた。
このプロジェクトは用地面積にして220エーカー規模で、2020年に米国初の洋上風力発電支援に特化した港湾としてニュージャージー州が提案したものだ。長さ数百フィート、重量は満載時のボーイング747ジェット機を上回るという巨大な風力発電用タービンに対応できる施設を備えるはずだった。
「ニュージャージー州における洋上風力発電の長期的な可能性を今も信じているが、納税者の資産を預かる立場として、すべての選択肢を評価する必要がある」と同州経済開発庁は声明で述べた。
これに先立って、同州の公益事業監督当局は、先日行われた州調達プログラムの入札に唯一参加していたアトランティック・ショアーズとの契約を撤回した。アトランティック・ショアーズはEDFとシェルの合弁事業だが、シェルは先月撤退した。
競合するデンマーク企業オーステッドは計画中の港湾の利用契約を結んでいたが、23年末にニュージャージー州でのプロジェクト2件を中止した。
ニュージャージー州南部商工会議所のクリスティーナ・レンナ代表は、この港湾が創出するものと期待されていた数千人分の雇用が危うくなっている、と指摘する。
「他の洋上風力発電企業が来てくれるのが理想だが、この状況では難しいだろう」とレンナ代表は述べ、この港湾は石油・天然ガス産業や大手メーカーにとっても有益だろうと続けた。
ニューヨーク州では、風力発電産業が沖合のプロジェクトに向けてブレードやタワーなどの部品を製造する工場に20億ドルを投資することで、ハドソン川に面した2つの港湾が潤うものと期待されていた。
だが昨年にはエネルギー企業GEベルノバが大型洋上風力タービンの計画を撤回、コイマンズ港で機器を生産する合意から離脱した。
オールバニー港は21年、風力発電用タワー工場計画を支援するため、数百万ドルの設備刷新投資に着手したが、その後、コスト高騰のために計画は棚上げとなっている。
海底ケーブルメーカーも撤退しつつある。
イタリアのプリズミアンは1月、洋上風力発電向けの海底ケーブル製造施設をマサチューセッツ州に建設する計画を中止すると発表した。
プリズミアンはトランプ大統領就任の翌日に計画変更を発表したが、政治的な理由による決定ではないとしている。広報担当者によれば、同社の送電関連ビジネスの受注残は180億ユーロに達するが、すべて欧州市場分であるという。
プリズミアンと競合する韓国LSコープ傘下のLSグリーンリンクは、バージニア州チェサピークで総工費6億8100万ドルを投じた海底ケーブル製造施設を計画しており、変更はないと述べている。LSグリーンリンクは、この工場では欧州の顧客向けの生産も想定しており、必要に応じて陸上ケーブルの生産も可能だという。
だが、LSグリーンリンクでマネージングディレクターを務めるパトリック・シム氏は、この製造施設の拡張については計画を見合わせていると話す。
シム氏はロイターの取材に対し、「拡張するとなれば投資額は9-10ケタ、雇用も数百人規模になるが、とにかく現時点では白紙の状態だ」と述べた。