ニュース速報
ビジネス

焦点:中国、トランプ関税対応の人民元安容認は小幅か

2025年01月20日(月)17時37分

 1月17日、 金融市場は、トランプ次期米大統領による関税を相殺するために中国が人民元を政策手段に利用することはないと予想している。写真は人民元と米ドルの紙幣。2023年1月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[シンガポール 17日 ロイター] - 金融市場は、トランプ次期米大統領による関税を相殺するために中国が人民元を政策手段に利用することはないと予想している。トランプ政権1期目に見られたような急激な人民元切り下げは、低迷する現在の中国経済にとって恩恵よりむしろ弊害の方が大きいとの見方からだ。

人民元の先渡し価格、金利デリバティブ、アナリストの予測など、さまざまな兆候から分かるのは、中国は既にトランプ次期政権に備え、ドルの全面高に見合うよう人民元の緩やかな減価を容認しているということだ。

一方で、人民元安は段階的で小幅なものにとどまると投資家が予想していることも見て取れる。セルサイドのアナリストは、現在の水準から年末までに5―6%の下落を予想している。

トランプ政権1期目には、2018年3月から20年5月にかけて米国と中国が報復関税合戦を繰り広げる中、中国は対ドルで12%以上もの人民元安を容認した。

トランプ氏は20日に発足する次期政権で、中国製品への輸入関税を最大60%まで引き上げると脅している。ただ一部の報道によると、引き上げは徐々に実施される可能性もある。

アナリストらは、1期目とは状況が異なると指摘する。人民元は既に弱含んでおり、中国経済は脆弱で、中国金融市場への投資資金は流出している。そして中国の輸出全体に占める対米輸出の割合は当時より縮小し、大幅な人民元切り下げを正当化するには小さ過ぎる割合になっている。

人民元は最近、対ドルで16カ月ぶりの安値付近で低迷しており、3年連続で下落している。これに対し、2018年には過去最高値に近い1ドル=6.3元前後で推移していた。

ロイターは先月、中国当局者の間で1ドル=7.5元までの元安容認が検討されていると報じた。現在の水準から約2%の下落となる。

しかし下落分の大半は、約300ベーシスポイント(bp)まで拡大した米中の金利差がもたらすものとなりそうだ。

ドルは既に1ドル=7.3元近くに上昇しており「この水準を大幅に上回ることは現実的ではない」とBNPパリバの中国・香港地域為替・金利戦略責任者、ジュ・ワン氏は言う。

ワン氏は、中国の1兆ドルの貿易黒字は、ほぼ半分が米国以外の国々に対する黒字だと指摘した。筆頭は、中国製品の最終加工拠点として成長したベトナムなどの近隣諸国だ。

2015年と19年の人民元急落局面では、中国は近隣窮乏化策としての通貨切り下げは一切行っていないと弁明せざるを得なかった。

ワン氏は「中国は依然として相当大きな貿易黒字を抱えているため、通貨を比較的安定させる責任がある。関税に逐一対応して人民元の対ドル相場を調整することは、世界から受け入れられない」と語った。

中国人民銀行(中央銀行)は17日、人民元に関するロイターの質問に対し、中国には十分な外貨準備があり、外的ショックへの対応経験も豊富だとした上で 「人民元の為替レートを適正な均衡水準で基本的に安定させる自信、条件、能力がある」と答えた。

<安定が鍵>

経済が低迷しているという国内事情からも、金融システムと人民元を安定させ、住民や企業が貯蓄を海外に移さないようにする必要がある。

中国では債券利回りが低下し、株式市場と不動産市場が不安定なため、ドルを買いだめする動きが加速している。

アリシア・キャピタルの中国ストラテジスト、ビンセント・チャン氏は「人民元が非常に不安定な通貨になれば、人々は米ドルに交換したり、金を購入したりするだろう。それは中国人民銀行が望んでいることではない」と述べた。

中国人民銀行は人民元安を封じ込めるために手を尽くしており、人民元は貿易加重ベースでは堅調を維持している。

25の通貨バスケットに対する貿易加重ベースのCFETS人民元指数は、過去2年間の最高水準に近い水準を維持。つまり人民元は今のところ、貿易相手国の通貨よりもやや輸出競争力が劣る水準となっている。

当局は、国内の債券利回り低下に歯止めをかけるため、債券購入プログラムを一時停止するなどした。また企業に対し、より多くのドルを国内に引き寄せるために海外で資金を借りるよう促している。人民銀行はしばしば、市場の予想よりも人民元高の水準に対ドル基準値を設定する。

中国指導部は昨年12月、2025年の経済成長を支えるために金融緩和策などの措置を講じると約束したが、金利スワップ取引を見ると、市場は利下げの確率が小さいと想定している。人民銀行が人民元の安定を優先するとの見方からだ。

アルパイン・マクロの中国ストラテジスト、ヤン・ワン氏は、人民銀行にとってのドル/元の上限を7.7元程度と見ている。現水準から5%程度の元安だ。

みずほのアジア(日本を除く)マクロリサーチ責任者、ビシュヌ・バラサン氏は「短期的には人民元安の圧力は避け難いかもしれない。しかし、貿易加重平均ベースで人民元の安定が過度に損なわれないような管理が成される可能性がある」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏の政権復帰に市場は楽観的、関税政策の先行

ワールド

フーシ派、イスラエル関連船舶のみを標的に ガザ停戦

ビジネス

高関税は消費者負担増のリスク、イケア運営会社トップ

ワールド

「永遠に残る化学物質」、EUが使用禁止計画 消費者
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 10
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中