アングル:日鉄のUSスチール買収、今後どうなる 日米関係に影響は
1月4日、バイデン米大統領は国家安全保障上の懸念を理由に、日本製鉄による149億ドルでのUSスチールの買収を禁止するよう命じた。写真は日鉄のロゴ。都内で2019年3月撮影(2025年 ロイター/Yuka Obayashi)
[4日 ロイター] - バイデン米大統領は国家安全保障上の懸念を理由に、日本製鉄による149億ドルでのUSスチールの買収を禁止するよう命じた。買収計画にとって致命的な打撃となる可能性がある。
世界鉄鋼協会のデータによると、買収が成立すれば世界第3位の鉄鋼メーカーが誕生するはずだった。しかしバイデン氏、トランプ次期米大統領、有力な労働組合が買収に反対していた。
今後は両社が米政府を提訴する可能性、別の買い手がUSスチール買収に手を挙げる可能性、あるいは買収を支持する共和党議員らがトランプ氏に承認の道を探るよう促す可能性もある。
考えられる展開は以下の通り。
◎買収計画自体の行方
バイデン氏は買収を阻止したが、両社はまだ計画を放棄していない。
日本製鉄とUSスチールは共同声明でバイデン氏の決定を「違法」と非難した。3日の日本経済新聞によると、日本製鉄は米政府を相手取り、決定に至る手続きに異議を申し立てる訴訟を起こす可能性がある。
USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は3日、「われわれはバイデン大統領の政治腐敗と戦う構えだ」と述べた。
一部の弁護士は、訴訟が難航すると見ている。
日本製鉄は、外国企業による買収の是非を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の要求に応えるため、米本社のピッツバーグ移転提案を含む数々の譲歩を行ったと主張した。
CFIUSは安全保障上のリスクを巡って意見がまとまらず、この取引に関する勧告を行わなかった。
オバマ政権で国防総省高官を務めたブレット・ランバート氏は「提訴すれば、CFIUSを構成する各機関による決定の大半が公開されるだろう」と述べた。CFIUSが、対立した判断を大統領に提出するのは異例だと同氏は言う。
買収が成立しない場合、日本製鉄は5億6500万ドルの違約金を支払う義務が発生する可能性がある。
◎USスチールの今後
ピッツバーグに拠点を置くUSスチールは、買収が成立しなければ製鉄所を閉鎖する可能性があり、数千人の雇用が失われかねないと警告していた。世界的に鉄鋼業界が不況の中、USスチールの利益は9四半期連続で減少しているが、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータによると、予想利益に基づく株価収益率(PER)はなお12.87倍で、米国の同業他社より高い。
買収に反対した全米鉄鋼労働組合(USW)は、USスチールの警告には根拠がないと主張。3日には、最近の業績を見れば明らかに「強靭な企業であり続けることは容易だ」との見解を示した。
他の買い手が現れる可能性もある。以前にUSスチールへの買収を提案していた米クリーブランド・クリフスが再浮上し、より低い買収額を提示するかもしれない。しかし同社の市場価値は現在、USスチールを下回っている。
フリーダム・キャピタル・マーケッツのチーフ・グローバル・ストラテジスト、ジェイ・ウッズ氏は「ニューコアとクリーブランド・クリフスがUSスチールと協議するとの思惑が生じそうだが、大統領のメッセージを踏まえると、米政府が救済措置を講じてUSスチールのインフラに投資するのではないかと考えられる」と語った。
◎トランプ氏の立場
20日に就任するトランプ次期大統領は繰り返し、買収を阻止すると約束してきた。この見解はバイデン氏と一致している。
先月は自身のSNSであるトゥルース・ソーシャルに「かつて偉大で強力だったUSスチールが外国企業、この場合は日本製鉄に買収されることには完全に反対だ」と投稿。「大統領として、私はこの取引を阻止する。買い手は気をつけろ!!!」とくぎを刺した。
トランプ氏の政権移行チームは3日、コメントを発表しなかった。しかし同日、現職および元職の共和党公職者らがバイデン氏の決定を批判し、米国への投資が損なわれると述べている。
◎日米関係
一部のアナリストは、この買収を阻止すれば日米関係が悪化しかねないと警告している。バイデン氏は中国の経済的、軍事的台頭という脅威に対抗するため、日米関係の改善に取り組んできた。
日本は最大の対米投資国であり、最大の企業ロビー団体は、買収に政治的圧力がかかっているとの懸念を提起した。ホワイトハウスはこれを否定している。
オバマ政権下で通商交渉の高官を務めたウェンディ・カトラー氏はX(旧ツイッター)に「買収は米国が競争力を回復し、中国に対抗するのに役立っただろう。それを効果的に行うには友人、特に日本が必要だ」と投稿した。
トランプ氏はすでに主要同盟国であるカナダ、メキシコ、欧州諸国に高関税を課すとほのめかしているため、大統領就任後はさらに不安が高まるかもしれない。
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