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焦点:中国、金融政策改革の長い道のり 流動性リスクが高い壁

2024年08月30日(金)13時14分

中国人民銀行(中央銀行)は、与信の規模ではなくコストに狙いを定める方向に金融政策の枠組みを転換したがっている。ただ流動性リスクや市場が非協力的になる可能性から、国家の指令に基づいて銀行が融資に動く経済構造を脱却する取り組みは、難しさを増しつつある。写真は北京の同行前で2018年9月撮影(2024年 ロイター/Jason Lee)

Kevin Yao

[北京 30日 ロイター] - 中国人民銀行(中央銀行)は、与信の規模ではなくコストに狙いを定める方向に金融政策の枠組みを転換したがっている。ただ流動性リスクや市場が非協力的になる可能性から、国家の指令に基づいて銀行が融資に動く経済構造を脱却する取り組みは、難しさを増しつつある。

7月の中国共産党指導部の会議では、資源配分において市場の役割を高める目標が復活。人民銀がそうした改革の主役になると想定されている。

人民銀はここ数カ月、より市場の主導的な色合いが濃い金利カーブ形成につながる措置を打ち出しており、資金需要がもっと金融政策の変更に反応して増減するための改革も行うとみられる。

さまざまな改革を通じて長期的に期待されるのは、銀行融資に代わる資金調達手段として資本市場が発展し、国家の影響力が圧倒的に強い銀行システムによる不必要な投資のリスクが減退する流れだ。

しかし中国経済の減速、国家主導の側面が強いインフラ投資になお成長を依存している事情、産業構造近代化が道半ばであるといった点は、いずれも膨大な流動性の必要を意味する。そして市場も、人民銀が国家発展目標にプラスとなるとみなす形で、資金を供給することに消極的になるかもしれない。

S&Pグローバル・レーティングスのアジア太平洋チーフエコノミスト、ルイス・クイジス氏は「人民銀は金融政策の枠組みを、世界の主要中銀が採用するようなものになるよう徐々に改革を続けていくだろう。だが改革はゆっくりとしか進まない」とみている。

人民銀は政策調整の目標を短期金利に移行するとともに、長期の借り入れコストに影響を及ぼすために国債取引を次第に拡大する計画を発表したものの、政策の伝達効果を改善するにはさらなる対応が必要となる。

中国政府のあるアドバイザーは「われわれは市場機能に基づく金利体系を育てる方向にある。とはいえ大変な仕事で道のりは長い」と認めた。

複数のアナリストや政策アドバイザーによると、将来の改革は融資ガイダンスを含めた流動性供給手段の段階的廃止に踏み込む公算が大きい。

<量的手段>

融資ガイダンスや他の量的な政策手段は、資金需要の動向に関係なく銀行に貸し出しを促すことになる。

これは非効率性を生み出し、金融システムに滞留した余剰資金は銀行預金か資産運用商品に向かうケースが少なくない。

一方で量的政策手段廃止にはリスクが伴う。

年間国内総生産(GDP)の約3倍に膨れ上がっている債務や、今年で5%前後という野心的な政府の成長目標があるため、必要な流動性が年々増大しているからだ。

ANZのシニア中国ストラテジスト、シー・チャオペン氏は、経済を支えるために人民銀が新規供給しなければならない流動性は年間約2兆元(2810億ドル)に達すると試算している。

人民銀が示唆するのは、真っ先に役割を縮小すべき政策手段は中期貸出ファシリティー(MLF)だ。

ところが6月末時点で、MLFの実行残高は7兆0700億元(9946億ドル)とGDPの約5.6%に上る。

INGのチーフ中国エコノミスト、リン・ソン氏は「MLFは長期の資金調達においてまだかなり重要な存在である以上、突然廃止される展開は予想されない。(廃止は)じわじわと進んでいくだろう」と述べた。

<ジレンマ>

ANZのシー氏は、人民銀が恒久的な金利自由化に動けば、現在の市場の安全志向を踏まえると長短利回り逆転(逆イールド)を発生させる恐れがあると語る。

中国の場合、そうなると人民元安が進み、資本逃避を引き起こしかねない。

シー氏は、完全な金利自由化は当局の介入を不可能にすると説明し、中国にとって市場機能を容認すればするほど影響力行使の余地がなくなるのはジレンマだとの見方を示した。

また、資本市場の役割を高めるには、金利体系だけでなく経済構造の抜本的な改革が求められるが、資本市場発展の足かせとなっているこうした制約にどう対処するべきか公の場での議論はほとんど見られない。

S&Pグローバル・レーティングスのクイジス氏は「人民銀が長期金利に関連して実行していることと、長期的な(経済の)改革課題に整合性がないのは明らかだ」と指摘した。

ロイター
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