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アングル:米利下げ、軟着陸実現できるか市場に不透明感

2024年08月02日(金)11時50分

米連邦準備理事会(FRB)の利下げが視界に入ってきた今、投資家は新たな難題に突き当たっている。写真はワシントンのFRBで2012年4月撮影(2024年 ロイター/Joshua Roberts)

Davide Barbuscia David Randall Matt Tracy

[1日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)の利下げが視界に入ってきた今、投資家は新たな難題に突き当たっている。それはつまり、果たしてFRBが利下げを通じて市場の期待通りに経済のソフトランディング(軟着陸)を達成できるのかどうかという疑問だ。今年の資産価格を押し上げてきたのは、そうした期待だった。

FRBのパウエル議長は7月31日、物価上昇の鈍化が続くなら、9月に利下げできるとの確信が強まっていると発言。早期利下げの環境が整ったというFRBとしてこれまでで最も強いメッセージを発信した。

しかしこれで投資家の不透明感が完全に払拭されたとは到底言えない。市場ではFRBがあまりにも長く高金利を維持してきたため、ソフトランディングのチャンスが損なわれるのではないかとの懸念がくすぶる一方、経済が比較的しっかりした状態で利下げすればインフレが再燃し、結局利下げ余地が乏しくなりかねないとの声も聞かれる。

DWSの債券・トレーディング責任者を務めるジョージ・カトラムボーン氏は「ソフトランディング(シナリオ)がまだ生きていると考えるべきさまざまな理由はある。だがリスクは両方向に存在する」と指摘した。

7月31日時点で金利先物は、FRBが9月に25ベーシスポイント(bp)の利下げに動く確率を87%と見込んでいる。

<効果に時間差>

米国の重要指標の大半は、金利水準が何カ月もの間、10年余りぶりの高さで推移しているにもかかわらず、経済が底堅さを保っていることを示している。ただ失業率が上がり始めており、政策担当者は最近、高金利と物価上昇鈍化に伴って起こりがちな失業率の急上昇を避けることをより重視するようになってきた。

ジェノア・アセット・マネジメントのピーター・ベーデン最高投資責任者は現在の経済状況について「不安定化しつつあり、その不安定さが全面的な減速に転じるかどうかが問われている」と解説する。

経済のほころびが顕在化した場合、利下げが成長を押し上げるまでに相対的に長い時間がかかり、景気後退の可能性が増すのではないか、というのが一部の投資家の心配だ。

ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は「FRBが利下げ態勢に入った時点で、何かマイナスの要素が既に経済に浸透している恐れがあるため、利下げが効果を発揮するまでには時間差が避けられない。9月に開始したとしても、来年にかけて経済を上向かせるには不十分かもしれない」と述べた。

実際に経済がもう痛手を被っていると考える向きもある。ニューヨーク連銀前総裁のビル・ダドリー氏は先週、すぐ利下げすべきだと主張。その理由としていわゆる「サーム・ルール(直近3カ月の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退の可能性が高いという経験則)の現実化が近づいていることを挙げた。

<株価は織り込み済みか>

利下げがインフレの再燃を招くとの不安も出ている。TDセキュリティーズのクレジット戦略マネジングディレクター、ハンス・ミッケルセン氏は、そうなると、市場が織り込んでいる年内75bpの利下げは実行が困難になるとの見方を示した。

ミッケルセン氏は「パウエル氏は昨年も物価データが良好に見えると強調したが、それからインフレがまた上振れた」と話す。

株価については、今年に入ってからの大幅高を踏まえるとFRBの利下げの大部分は既に織り込み済みとなった可能性があり、一段と上昇する余地は限られるかもしれない。

CFRAリサーチのデータからは、S&P総合500種が最後の利上げから最初の利下げまでの間に平均16.1%上昇しているが、利下げ後の12カ月では4.8%しか上がっていないことが分かる。今年のS&P総合500種の上昇率は16%だ。

ヌビーンの債券戦略を統括するトニー・ロドリゲス氏は、株式市場のバリュエーションはかなり目一杯に膨らんでいるので、追加的な上昇機会はそれほど大きくないとみている。

ロイター
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