アングル:円急騰の裏には誰が、深読みする市場 介入の疑心くすぶる
7月25日、外為市場ではこの2週間、歴史的な円安から一転して円買いが進んでいる。写真は円紙幣。2017年6月撮影(2024年 ロイター/Thomas White)
Shinji Kitamura
[東京 25日 ロイター] - 外為市場ではこの2週間、歴史的な円安から一転して円買いが進んでいる。日米金利差の縮小観測を材料に、投機筋が過去最大規模の円売りポジションを巻き戻しているため、との見立てが多い。
こうした中、政府・日銀による「小規模・小刻みな円買い介入」の可能性を意識する参加者もいる。現実性には疑問符がつくものの、一方的な円高進行でそれだけ市場心理が揺れている証しともいえ、目先は思惑が増幅する形で、円の戻り高値を試す展開になりそうだ。
<米CPIと介入、円売りドミノ倒しの様相>
161円台と38年ぶり高値圏を推移していたドル/円が急変したのは、7月11日の海外市場。米消費者物価指数(CPI)が予想を下回り、ドル/円が下落する中で円買い介入と見られる巨額売りが下げを加速し、157円台まで1日で4円を超える急落となった。
この円の急伸が、積み上がっていた円売りポジションを相次ぎ飲み込み、大規模な巻き戻しに発展する。その過程では、トランプ前大統領が「円安」と名指ししてドル高に不快感を示した、自民党の茂木敏充幹事長が利上げに言及したといった報道、日経平均の大幅な下げなどが「円の買い戻しにさらなる口実を与えた」(トレイダーズ証券市場部長の井口喜雄氏)という。
円買いが活発化する土壌は十分に整っていた。米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたIMM通貨先物の非商業部門の取組状況によると、投機の円売りは今月に入り、2007年に記録した過去最大に匹敵する水準まで積み上がっていた。
ドルは25日の東京市場で152円台まで下落し、2か月半ぶり安値を更新した。金利差収入を狙う円キャリートレードに伴う円売りは対米ドル以外にも広がっていたため、巻き戻しも広範で、豪ドルは3カ月ぶり、ユーロが2カ月半ぶり、英ポンドとスイスフランが2カ月ぶりの安値を相次ぎ更新した。
<「介入ではないと言い切れない」>
参加者の間でもうひとつ、円買いを誘う要因としてささやかれているのが、継続的な円買い介入への思惑だ。
直近では、日銀当座預金残高に介入と見られる大きな変動があったのは7月11日と12日の2日間のみだが、それ以外で「小規模の介入が行われていないとは言い切れない」(国内銀関係者)との見方がくすぶる。
介入がその後も行われているような形跡は、現在の市場には見当たらない。それでも払しょくされない疑念の根底には、特段の手掛かりがない中で、円高圧力が突発的に高まる局面が多いことがある。特に今週は、東京市場の日中に材料が見当たらないまま、円がじり高となるケースが少なくない。持ち高調整か小口の介入か、背景不明の変動そのものが、市場に不安心理を与えている。
同時に、介入の陣頭指揮にあたる神田真人財務官が「市場の裏をかく巧妙な手法」(外銀幹部)で動いていると見られることも、多くの参加者の疑心を焚きつけている要因だ。これまでの介入と見られる動きは、ロンドン、ニューヨークと市場も時間もいとわず、経済指標の発表直後から円相場に値動きがない最中まで、タイミングもさまざまだった。
日本総研調査部副主任研究員の松田健太郎氏は、神田財務官の介入手法は不規則で予測しづらいケースが多いと評する。そのため「例えばきょうも手掛かりに乏しい中で円高が進行しており、小口の介入は可能性としてあり得る」といい、「そもそも、市場参加者にそう思わせることに成功している時点で、当局は目的を達成しているとも言える」と話している。
現在はブラジルで主要7カ国(G7)財務相・中銀総裁会議、20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議が開催中だが、こうしたイベント中でも介入実施の障害にはならない、との声も市場で出ている。
(基太村真司 編集:橋本浩)