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アングル:脱デフレ下の不動産株、強弱材料が綱引き 見直し局面では選別色

2024年06月28日(金)12時42分

 6月28日、日本経済の「脱デフレ」は不動産株にとってプラスかマイナスか──。株式市場ではまだ明確な答えは出ていないようだ。都内で2023年11月撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)

Hiroko Hamada

[東京 28日 ロイター] - 日本経済の「脱デフレ」は不動産株にとってプラスかマイナスか──。株式市場ではまだ明確な答えは出ていないようだ。国内金利の急ピッチな上昇は業績に響くものの、インフレによる資産価格高はメリットが大きい。株価の出遅れ感から今後見直される場面があるとしても、金利上昇の環境を考慮すれば、企業間の選別色は強まるとの指摘も出ている。

不動産株の上値が重い。5月中旬以降にみられた国内金利の急ピッチな上昇や、金利の先高観が上値を抑え、東証の不動産業指数は4月に高値を付けて以降、軟調な動きが続く。 アクティビスト(物言う投資家)による自社株買い要求を材料に三井不動産株が急騰した4月半ば以降、不動産株は材料出尽くし感や国内金利の上昇で利益確定売りが強まってきた。

一般的に長期金利の上昇は、住宅ローンの長期固定金利の上昇圧力となり、住宅購入者の重しになりネガティブ視されやすい。多額の負債があるデベロッパーにとっては、利払い負担への警戒感も意識される。

不動産業の指数が高値を付けた4月12日以降の主要株(27日終値時点)は、三井不動産が13.2%安、住友不動産が21%安、野村不動産ホールディングスが8.6%安と軒並み安い。同期間のTOPIXは1.23%の上昇で、不動産株の低調ぶりが目立つ。

日銀は7月会合で今後1―2年の国債買い入れの減額計画を決める。金融市場では、あわせて追加利上げへの警戒感もくすぶる。先行きの引き締めにも前向きな姿勢を示す可能性があり、「長期的にあく抜け感は出にくいかもしれない」と、SMBC日興証券のシニアアナリスト、田澤淳一氏はみている。

<NAVが上昇基調、株安の裏で>

一方、インフレ期待局面で注目されるのがネットアセットバリュー(NAV、純資産価値)だ。企業が所有する不動産の価値から借入金などの負債額を引いたもので、所有不動産の時価が上がり、含み益が増えれば「PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった伝統的な指標だけで株価を割高、割安と判断するのは難しい」と、SMBC日興の田澤氏は話す。

とりわけ、市場関係者が注視するのが、株価を1株あたりのNAVで割って算出する「NAV倍率」だ。1株あたりのNAVは、企業が所有する不動産を全て売却し、負債を返済した後にいくら残るのかといった、いわゆる「解散価値」を示す。NAV倍率は株価の割安度を示し、1倍を下回ると割安感が意識されやすい。 野村証券のアナリスト、福島大輔氏は「低金利下における不動産市況の上昇や、大手各社の開発事業による不動産の価値向上で、各社のNAVは成長を続けている」と分析する。福島氏の試算では、三井不動産のNAV倍率(27日終値時点)は0.74倍で「現時点では割高感はないと判断できる」とみる。 株安の一方、NAVが上昇することでNAV倍率は低下する流れにあり、資産価値の上昇基調が明確になってくれば、金利高というネガティブな側面だけでなく「インフレのプラス面が意識され、株価の支援材料となりそうだ」(いちよし証券の投資情報部・及川敬司氏)という。

<オフィスか住宅か、強みに応じで選別も> 一方、金利上昇が意識される局面で、業界内での銘柄選別が進む可能性もある。

三井不動産や住友不動産などは「オフィスの賃料が上昇してくると、株価反転のきっかけになり得るのではないか」と、大和証券のシニアアナリスト、増宮守氏は指摘する。これらの銘柄は、不動産株の中でもオフィスの売上高比率が高い。 その兆しは見えつつあるようだ。三幸エステートのチーフアナリスト、今関豊和氏は足元のオフィス市場について、「新規供給が大幅に低下した一方、需要は引き続き高水準で推移している」という。現在は、コロナ禍のリモートワークからオフィス回帰の流れが進んでおり「製造業を中心に業績が好調とみられる中ではオフィスへの投資意欲も高まるだろう」とニッセイ基礎研究所の上席研究員、岩佐浩人氏は指摘する。

オフィス賃料は「建築費や共益費が上がれば賃料に反映されやすい面はある」(三幸の今関氏)ものの、需要と供給のバランスで価格が形成される側面が強く、物価との連動性が必ずしも高いわけではないという。三幸エステート子会社のオフィスビル総合研究所では、東京都心5区の1フロア面積50坪以上のオフィスビルの募集賃料については、今後3年間で9.3%の上昇を予測する。 一方、住宅関連は弱い地合いが続くとの見方もある。

東京カンテイの上席主任研究員、井出武氏は「都心の物件は富裕層や海外からのマネー流入で価格上昇がみられるが、実需が多い郊外のマンション価格の上昇は落ち着いている」と話す。物価高の影響で住宅購入を控える動きがある中で、先行きの金利上昇を見越した駆け込み需要も発生していないという。

住宅の売上比率が高い東京建物などにとっては逆風で「建築費などの高騰や金利上昇が中長期的に重しになりやすく、買いが入りづらいだろう」(GCIアセットマネジメントのポートフォリオマネージャー、池田隆政氏)との指摘が聞かれる。

(浜田寛子 編集:橋本浩)

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