コラム

高市早苗氏の政策・世界観を分析する──「保守」か「右翼」か

2021年09月10日(金)11時59分

と述べる。正当性の解釈はともかくとしても、皇室の権威は昭和天皇が敗戦後、全国を巡幸された事。上皇様が災害被災地の人々と常に寄り添ってきたなどの苦労による部分も大きいと思われるが、高市氏の世界観ではこれは「万世一系」の血筋がそれを担保しており、即ち男系天皇の存在が決定的であり、女系天皇を完全に否定している。

ご承知の通り、保守界隈にあっては完全に「女系天皇(女性、ではない)」「女性宮家の創設」などの意見はマイノリティである。皇統の問題にあっては、「女系容認論」を漫画家の小林よしのり氏が熱心に説くなどしたため、ゼロ年代後半から2010年代前半にかけて、小林氏とそのグループなどが保守論壇中央と衝突した。その結果女系天皇論者は「保守に非ず」と否定されマイノリティになり、現在に至っている。よって高市氏のそれは、やはり保守界隈主流の世界観を悉くトレースしたものになっている。


現在においても、世界一の御皇室を戴き優れた祖先のDNAを受け継ぐ日本民族の本質は、基本的には変わっていないのだと感じます。しかし、敗戦後の占領期にGHQが違法に行った最高法規の変更や社会システムの解体、教育勅語の廃止などにより、多くの良き精神文化が衰退してきたのも事実です。(「美しく強い日本」へ①:日本民族の素晴らしさ,2012年8月17日,前掲WEBサイトコラム)

まさに高市氏の皇室観を端的に現わした文章と言えよう。皇室が世界一であるかどうかは、議論の分かれるところではある。もし高市氏が総理になったならば、天皇陛下が海外の国家元首に謁見した際に、「我が国の天皇陛下は格が上である」と首相が言っているに等しく、外交慣習上の信義則に反するのではないか。勿論、皇室を世界一と思うかどうかについては当人の自由ではある。

しかし疑問だと思うのはここから。2012年8月(第二次安倍政権発足直前)の段階において、「世界一の御皇室を戴き優れた祖先のDNAを受け継ぐ日本民族の本質は、基本的には変わっていない」としつつ、そこにはGHQによる憲法「変更」や教育勅語の廃止により、「良き精神文化」が衰微した、と言っていることだ。その衰微の傍証として、高市氏は「生活保護の不正受給問題」をやりだまにあげた。

即ち日本人の本来持っていた良き精神文化が破壊されたから、生活保護の不正受給が氾濫したと書いている。勿論、生活保護の不正受給は法に従って厳正に罰せられるべきだ。しかしながら高市氏の世界観は、不正受給からさらに発展してこう筆を進める。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 7棟の捜

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story