コラム

EUがキューバに少し接近

2010年10月26日(火)18時02分

 EU(欧州連合)のキャ サリン・アシュトン外相(外務・安全保障上級代表)は今、キューバとの関係正常化を目指し、キューバ政府との対話の可能性を探っている。国際ニュースも扱う情報サイト、モンスターズ&クリティクスによると、これはキューバが最近数十人の政治犯を釈放したことを受けての動きだ。この動きに先立ち欧州議会は先週、人権や思想の自由を守るために献身的な活動を行った人々に与えられる「サハロフ賞」を、キューバで投獄中の反体制活動家ギジェルモ・ファリニャスに授与することを投票で決定した。


 96年以降にEUが貫いてきた政策は、キューバが人権問題を改善するという条件付きでキューバと接触する、というものだった。そんな中、スペインがカトリック教会とともにラウル・カストロ政権に働きかけ、数十人の政治犯を釈放するよう説得することに成功。その後スペインは、対キューバ政策を軟化させるよう、率先してEUに呼びかけている。

 キューバに対するスペインの働きかけを、フランスとイタリアも支持。こうした最近の動きを重視したEU外相会合は、キューバとの政治的関係を再開させることについて、可能性を探るようアシュトン外相に求めた。

「基本的には、キューバにEU高官を出向かせるかどうか、という話だ」と、イタリアのアルフレード・マンティカ外務副大臣は記者団に語った。キューバとの対話再開の可能性を調査するということについてはEUで合意したが、キューバに対するそれ以上の軟化政策はいっさい決定していない、とマンティカは強調した。アシュトンからの調査報告を待って、この問題については再度話し合われるだろうと、彼は説明している。


 EUの外相会合でこの提案に反対したのは、ドイツ、スウェーデン、ポーランド、そして中・東欧の元共産国などだった。先週フォーリン・ポリシー誌は、アメリカもEUと同様の軟化政策を提案するべきだと主張している。

 さらに特筆すべきは、サハロフ賞の受賞者決定の経緯だ。過去にもキューバ人受賞者が多かったことなどから、選考の段階では激しい異論と醜い政治論議が噴出した。そうした議論を尽くした末に、ファリニャスの受賞が決定したのだ。ノーベル賞の選考過程も、これくらいの透明性があるといいのだが。

――ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年10月25日(月)14時27分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 26/10/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米追加関税の除外強く求める、産業・雇用への影響精査

ワールド

日本も相互関税対象、自民会合で政府見通し 「大きな

ワールド

日中韓が米関税へ共同対応で合意と中国国営メディアが

ワールド

ロシアと米国は関係正常化に向け一歩踏み出した=中国
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story