コラム

アメリカに小惑星抑止の義理はあるか

2010年09月15日(水)17時14分

pa_060910.jpg

絵空事じゃない その時、人類には「ブルース・ウィリス」が必要だ

 英科学誌ネイチャーが、あまり注目されていないがすぐそこまで迫ったある決断期限についての論文を掲載している。


 ホワイトハウス科学技術政策局は、08年に米議会で成立した法律に則って、小惑星の衝突から地球を守る責任を負う機関はどこかを10月15日までに決定しなくてはならない。検討委員会の委員らによると、その責任のすべて、または一部は、NASA(米航空宇宙局)が負うことになるとみられる。

 使命を果たすため、NASAの中に惑星防衛調整室(PPCO)を設置して、2億5000万〜3億ドルの予算をつけるという議論もある。PPCOの仕事は、小惑星を探知し追尾すること、そして地球への衝突コースから逸らす技術を開発することだ。

 PPCOは諸外国にも、対小惑星防衛のための資金拠出を要請することになるだろう。既に、カナダは「NEO(地球接近物)」を調査するための衛星を11年に打ち上げる予定だし、ドイツの小惑星発見衛星も12年に運用が始まると言われている。だがいずれも、2020年までにNEOを発見し追尾できるようにするという目標には程遠いとみられる。


 アメリカは現在、NEOの追尾に年間約550万ドル、NEOの破壊方法の研究に100万ドル弱を投じているが、全NEO探知の目標達成には資金がまったく足りない状況だ。

 既に十分カネはかけている、という声もあるだろう。地球上でアメリカが抱える問題の数々を思えば、地球外のことまでそうそうかまけていられない。

 2020年までに潜在的に危険なNEOをすべて探知するという目標を達成するには、総額10億ドルかかるとNASAは言う。人類が恐竜と同じ運命から救うための資金である。しかもアメリカはこれまで、それよりはるかに崇高でない目的のために10億ドルどころではない金を費やしてきた。

■ミサイル防衛とも地球温暖化とも違う

 直径1キロの小惑星でも、世界の穀物生産量を激減させ、地球の気候を激変させてしまうぐらいの影響をもつ。幅がわずか数メートルの小惑星でも、大都市を消滅させるのに十分だ。

 だがちょっと待て。アメリカの時代は終わったと言われるなかで、小惑星から地球を救う使命をなぜアメリカが負わなければならないのか。例えばミサイル防衛と違って、小惑星の探知と抑止は特定の陣営ではなくあらゆる国を守るための防衛策だ。もしNASAが潜在的に危険な小惑星を探知したとしても、実際に衝突するのはアメリカ以外のどこか別の国である可能性が高い。途上国も、小惑星の脅威も地球温暖化のようにアメリカのせいだとはさすがに言えないだろう(もちろん、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領ならそのぐらい言いかねないが)。

 科学者たちは数年前から国連に、小惑星探知のために国際的な取り組みをするよう促してきた。だが国連宇宙局の努力にも関わらず、取り組みはほとんど進んでいない。

 明るい兆しもある。メキシコの外務省は今年、小惑星追尾に関する国際会議を主催した。ロシアの宇宙局もEU(欧州連合)に、合同の小惑星監視プロジェクトを提案している。

 幸い、まだ時間はありそうだ。地球上のかなりの人口を消滅させるほど大きな小惑星が衝突するのは、100万年に2回の確率だ。だが、地球温暖化のようにより差し迫った問題に対してさえ国際社会の意見は分裂したまま。いざ小惑星がやってきたとき、ブルース・ウィリス(『アルマゲドン』)やモーガン・フリーマン(『ディープ・インパクト』)に人類の命運を預けるはめにはなりたくない。

──ジョシュア・キーティング

[米国東部時間2010年09月13日(月)13時46分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 15/9/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米追加関税の除外強く求める、産業・雇用への影響精査

ワールド

日本も相互関税対象、自民会合で政府見通し 「大きな

ワールド

日中韓が米関税へ共同対応で合意と中国国営メディアが

ワールド

ロシアと米国は関係正常化に向け一歩踏み出した=中国
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story