コラム

イランのねじれた『LOST』愛

2009年09月15日(火)15時37分

 米テレビドラマ『LOST』は、これまでイランの闇市場でインターネットのダウンロードや違法DVDを通じて大量に出回っていた。イラン政府は最近、この人気ドラマの流通をついに合法化した。英ガーディアン紙が報じた


 イランの闇市場では、これまで『24―TWENTY FOUR―』や『プリズン・ブレイク』、『デスパレートな妻たち』のような長編ドラマが広く流通していたが、法的お墨付きを得たものは何ひとつなかった。政府はこれまで『LOST』を批判し、メディアに放送するなと警告してきた。その販売・放送の合法化は大きな方針転換だ。

 最近アハマディネジャド政権の文化・イスラム指導相職から更迭されたモハメド・ホセイン・サファルハランディは、『ロスト』は「シオニストの考え」を広げるものだと批判した。一方で『LOST』には「東洋的」なテーマが含まれているからイランの視聴者に適している、と主張する人たちもいる。

「我々の古典文学のおかげで、この物語の雰囲気はイラン人や東洋の視聴者にとっては馴染み深い」と、テレビ・映画評論家のサイード・ゴットビザデはテヘラン・エムルーズ紙に語った。「東洋の視聴者はこのドラマを理解できるし、自然と好きになる」


 私は『LOST』のシーズン1しか見ていないが、この話のテーマはとても西洋的にみえた。キリスト教ならではの償いのシーンがたくさんあるし、登場人物の名前には明らかに西洋の思想家に由来するものがある。たぶん、私は何かを見落としているのだろう。

 法的許可を得て出回るイラン版は、裸に近い姿の女性や男女間の身体的接触といった「イスラム的でない」シーンを排除して編集される予定だ。つまりイラン当局にとっては、『LOST』が描く精神的探究の旅よりも、エバンジェリン・リリー(ケイト役)のビキニ姿が問題だったということ。おそらく闇市場は今後も盛況だろう。

 余談だが、イランの視聴者に『24―TWENTY FOUR―-』をどう思うかもぜひ聞いてみたい。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2009年09月14日(月)18時47分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 14/09/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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