コラム

銀座・中国人昏睡強盗、日本人の知らない実態

2012年01月16日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔1月4日・11日合併号掲載〕

 中国の南方都市報という新聞をご存じだろうか。共産党が厳しくメディアを言論統制している中国で、リベラルな論調で知識人に幅広く支持されている広東省の日刊紙だ。昨年、当局に拘束されている民主活動家の劉暁波(リウ・シアオポー)がノーベル平和賞に決まったとき、受賞を祝う写真を1面に載せた気骨ある新聞、といえば日本人にも思い出してもらえるだろう。

 その南方都市報に8月末から「歌舞伎町大学」というコラムを執筆している。内容は外国人参政権問題から歌舞伎町の風俗まで、私なりの視点に基づく日本の「今」の紹介だ。自分で言うのも何だが中国のネットではかなり注目されており、古くからのコラムニストを抜いてほぼトップの人気を維持している。

 私自身が東京に住んで23年になる在日中国人だから、「歌舞伎町大学」では日本で暮らす彼らの頑張りぶりも紹介する。だが、時には残念な記事を書かなければならないこともある。

 11月に取り上げたのが、大手全国紙の元社員が銀座で中国人女性の昏睡強盗に遭い、退職金など1650万円を取られた事件だ。送別会の直後にだまされ退職金を奪われた、という泣くに泣けない状況と、全国紙元社員という肩書で大きなニュースになったが、実は今回の事件は氷山の一角にすぎない。この手の事件は銀座だけでなく、札幌のすすきのや福岡の中洲といった日本の繁華街でしょっちゅう起きている。

 今から8年前、私は半年だけ銀座でクラブ経営に関わっていたことがある。そのとき気付いたのだが、深夜12時を過ぎて高級クラブが閉まると、銀座の街頭のあちこちに2人組の中国人女性が立ち、酔った日本人男性に声を掛け始める。彼女たちは皆40歳前後で、男性に「複数による不適切な交流」を持ち掛けながら、強い酒や睡眠導入剤を飲ませてもうろうとさせ、キャッシュカードで10万~20万円を引き出す手口を繰り返していた。

 彼女たちがそろって「40歳前後」なのは、銀座に多い高齢の酔客にとって安心できる存在だから。中には「月収」200万円も稼ぎ、そのカネで中国に不動産をたくさん買ったつわものもいる。

■犯罪を呼び寄せる日本人の隙

 大半は届け出るのが恥ずかしくて泣き寝入りしているが、中には100万円単位で被害に遭うケースもある。ただ身元を明かす証拠は一切残していないので、彼女たちは簡単には捕まらない。今回の2人組は過去に逮捕歴が5回もあった。要は昏睡強盗を「仕事」にしているのだ。

 もちろん中国人の側が悪いのは間違いない。ただ日本人の側にも隙はある。

 そもそもこの「仕事」は、中国では成り立たない。中国人は誰がぼったくりかよく知っているし、家族や知り合い以外を簡単に信用せず、酔っぱらって街頭でだまされる、という失敗をしないからだ。経済が急成長しているから「バブルおやじ」は中国にもいるが、「簡単にだまされるバブルおやじ」は日本にしかいない。
 
 日本の警察にも問題がある。銀座では毎夜2人1組の中国人中年女性が10組以上うろうろしていたが、警察が彼女たちを取り締まることはなかった。その気になれば何らかの対応はできたはずだ。

「乗っている児童の数が多過ぎる通学バス」にせよ、韓国の海洋警察官を殺した漁民にせよ、中国や中国人のニュースは突き詰めて考えればどれもカネ絡み。「全民向銭看(中国人はカネばかり)」とは「全民向前看(中国人よ前を見よ)」というかつてのスローガンの皮肉だが、昏睡強盗ほどでないにしろ、中国人の大半は今も拝金主義に侵されている。一方でバブルがはじけて20年もたつのに、相変わらず警戒感のない日本人も多過ぎる。

 中国人も日本人も、ダンサーから記者、貿易会社員、作家、案内人と見事な転身を繰り返してきた李小牧の「歌舞伎町大学」でもっと学ぶべきだろう(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story