コラム

スーパー・ルーズビズは日本をダメにする!

2011年08月08日(月)07時00分

〔8月3日号掲載〕

 このコラム「Tokyo Eye」の執筆陣は国籍もさまざまなら、仕事も学者やジャーナリスト、歌舞伎町案内人とさまざま。だが意外に仲が良く、何年かに1回はわが新宿・湖南菜館に集まっておいしい酒を飲み、激辛の湖南料理を味わいながら、共通言語である日本語で互いのコラムを評し合っている。私はそれぞれのコラムニストを尊敬している。だが、それぞれの内容について時に議論や建設的な批判をすることも大事だ。

 先日、本誌7月20日号をコンビニで買ってマイケル・プロンコさんが書いた「ネクタイも背筋も緩めて『ルーズビズ』の夏を」を読んだとき、思わず「う〜ん」と考え込んでしまった。プロンコさんは「日本人はもう少しだらけていい。節電が必要なこの夏は『ルーズビズ』で行こう」と主張しているが、中国人として23年間日本を見てきた私の意見は少し違う。

 私が初めて成田空港に降り立った88年、日本はバブル真っ盛り。サラリーマンは例外なくきちんとネクタイを締め、満員電車に揺られて決まった時間に出社し、オフィス街は毎日夜遅くまで残業の明かりが光っていた。この緊張感が成長の原動力でもあった。

 それが今はどうだろう。フレックスタイムで自由な時間に出勤し、会社では決まった机もなく、毎日好きな場所で自由に仕事をする。若者は定職に就かないまま道端に座り込んでいる......。私に言わせれば、こんな態度はまったく話にならない。仕事には緊張感が必要で、ダラダラしても仕事の効率は悪くなるばかりだ。

■「ルーズビズ先進国」中国の変身

 どうしても頭を休めたければ、仕事の中身を切り替えればいい。ちなみに私は歌舞伎町の街角で案内人の部下を叱った数分後には、湖南菜館に戻って笑顔で接客し、すぐに別室で編集者と本や記事の打ち合わせ......と、常に緊張感を保ちながら、目先の仕事を変えることでうまく脳を休ませる「李小牧式脳活性化トレーニング」を実行している。

 それにあまりにダラダラしていると、今以上に日本は世界から取り残されてしまう。わが中国は、夏になるとあまりの暑さに上半身裸で街を歩いたり、夜にはベッドを屋外に持ち出して寝たりと、「ルーズビズ」先進国だったが、最近では経済成長で競争原理が働き、かなりきちんとした国に変わりつつある。サービス業の現場も同じで、わが湖南菜館で働くコックたちの口癖は「日本でダラダラしていたら厳しい中国では働けない」だ。

 プロンコさんは「アメリカの街角には肩を丸めて歩く人や『俺はのんびり行くぜ』とばかりにダラダラ歩く人が必ずいるが、東京では見たことがない」と書いているが、きちんとした身なりや礼儀正しさ、時間に厳格なところが日本の良さなのだから、わざわざ外国の悪い部分を持ち込む必要はない。中国では信号はほぼ無視されるものと決まっているが、2年前には皇居前で信号を無視した中国人観光客が車にはねられて死んでしまった。「郷に入っては郷に従え(中国語では「入郷随俗」という)」ということわざは決して間違っていないと思う。

 今回の大震災では、家族や家を失った被災者が避難所で段ボールを使って自分たちの領域を区切り、規律を守って生活する様子が世界を感動させた。あれだけ批判を受ける菅直人首相が被災地を訪問したときも、大半の人は罵声も浴びせず冷静に応対していた。こういった日本人の美学は今も世界に誇っていいはずだ。

 わが故郷、湖南省の大先輩である毛沢東は今から75年前、スローガンとして「団結、緊張、厳粛、活発」を掲げた。彼の言うとおり、目標を達成するためには、「ルーズビズ」でダラダラするのではなく「活発(生き生きと)」に「緊張」することが必要だ。

 私の意見に対するプロンコさんの反論をぜひ聞いてみたい。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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