コラム

牛丼屋のロックなBGMにみる音楽センス

2009年07月28日(火)12時43分

今週のコラムニスト:マーティ・フリードマン

 日本に来て感激したのは、BGMのセンスが最高にいいということ。東京のコンビニに入ると、日本の今のヒット曲を流している。アメリカにいるより、東京にいるほうが時代を感じることができるとは思わなかった。コンビニで新しい音楽を「発見」できるなんて、まさに最高の環境だと思う。

 僕が最初にB'zに出会ったのは、ラーメン屋さんで。聴いたことのない曲だったけれど、すごくいいと思い、それがJ-POPヘの入り口になった。こんなにマニアックなファンになるとは思わなかったけれど。

 アメリカではBGMといえば、古い曲とかイージーリスニングばかり。でも、向こうのイージーリスニングは全然イージーじゃない。セリーヌ・ディオンとかホイットニー・ヒューストンとか、叫び系ばっかりじゃん。全然癒やされない。寿司店なら、お琴と三味線の「さくらさくら」に決まってるよね。

 でも東京では、普通のお店のBGMが超ゴリゴリのノイズ系ロックとか、メタメタのメタル。9mm Parabellum Bulletなどのすごく激しいバンドが、牛丼屋で普通に大音量でかかっている。そんなのを聴くと、東京は最高と思う。アメリカ人の僕は最初、激しいロックは食べ物のBGMじゃないと思った。ところが、日本人は普通に食べている。アメリカ人なら絶対クレームする! 僕はあの系の音楽が好きだから、かっこいいところで牛丼を食べていると思った。音楽がよくなると、環境が急にかっこよくなるよね。アメリカのファミレスでロックなんてありえないよ。

■「平均の国」アメリカの音楽は冒険とは無縁

 東京の音楽センスのよさは、ありとあらゆるジャンルを受け入れる豊かさと関係している。ラジオもそうじゃん! J-POPからジャズまで、ありとあらゆる音楽を流している。すごいのは、マニアックな音楽にも門を閉ざさないこと。TOKYO FMやJ-WAVEなどの主要局でも、普通の時間帯にクラブ系の音楽がかかっている。アメリカなら朝の3時か4時にしかかからないような音楽だ。

 外国から東京に帰って来るときは、たいてい夕方に成田空港に到着するが、迎えの車の中でまず聴くのがラジオ。J-WAVEのピストン西沢の『GROOVE LINE』という番組。いいよね。本当に冒険的で、幅広いジャンルを取り上げている。

 そういう意味では、日本のほうがアーティストにチャンスをあげる国といえる。逆に思うかもしれないが、アメリカという国は冒険をしない。なぜなら「平均の国」だから。アメリカの平均が濃縮されたメインストリームが文化を支配していて、売れる曲は新しくないものばかり。だからアーティストは10年前と変わらない音楽を出し続け、成長することをしない。いい音楽はいっぱいあるが、メインストリームに入らないアーティストはなかなか認められず、苦労をする。

 アメリカではほとんどの人が田舎に住んでいて、音楽とは無縁の生活を送っている。アメリカ人の9割はバカじゃん。バカという言い方は悪いけれど、彼らの人生に音楽は関係ない。1年に1枚CDを買うか買わないか。それも、ウォルマートやKマートでかかっているものを買うだけ。ウォルマートでかかっているBGMこそ、アメリカの平均の「濃縮」だ。僕はウォルマートの音楽が好きとは言いたくないよ!

■パフュームなんて普通じゃない

日本人は誰でもなんらかの楽器を演奏できるでしょ? 歴史のある日本では音楽が身近な存在として根付いている。音楽を楽しむ祭りもあるじゃん。アメリカの歴史の中に、残念ながら音楽はない。
   
 僕はジャンルにこだわりたくない。ジャンルレスで行きましょう、といつも言ってるのだけど、その代表が『紅白歌合戦』。演歌やポップスなど、ありとあらゆるスタイルを同時に並べて見せるのはとても日本的。日本の人は気付いていないかもしれないけれど、あんな冒険的な試みは他ではない。とても心が温まる。

 ランキングの上位を見ても、いろんなスタイルの音楽が共存しているでしょ。パフュームなんて全然普通じゃない! おっかしい! クラブ系の音をいじった冒険的なものなのに、武道館も代々木体育館も満員になって、普通の人が楽しんでいる。一般的な人たちが冒険的な音楽を楽しんでいるのを見るのが、僕はとても好き。僕の大好きなヘビメタバンド、マキシマム・ザ・ホルモンも、普通にチャートの上位に食い込んでいる。本当に音楽的に平和な国だなあと思う。

 アメリカはロックンロールを発明した。その点は誰にも負けない。でも日本のほうがリッチな深い音楽がある。住めば住むほどそれに気付かされる。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 7
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story