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なぜ「まん延防止」は長引いてしまったのか?...「経済」が軽視された、日本の新型コロナ対策を「今こそ」振り返る

2025年04月23日(水)11時00分
伊藤由希子+大竹文雄+横山広美+土居丈朗(構成:黒川博文)

土居 大竹先生、今、伊藤先生がお話しされた点に関して、新型コロナウイルス感染症対策分科会では実際にどのような議論があり、どういう意図で方針を示されたのかという舞台裏をお聞かせいただけないでしょうか。

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大竹 コロナ禍1年目は、緊急事態宣言や行動制限を出す方向にあったのですが、その理由が「医療提供体制が充実していないから行動制限をせざるを得ない」というロジックでした。つまり、医療提供体制を充実する施策を緊急にすれば、行動制限に頼らなくて済むということです。

特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)の中には、緊急事態宣言中はそのための医療施設をつくることができるという条文があります。しかし、緊急事態宣言中なので、そのための医療施設を1カ月でつくるというのはできない、と。

また、分科会でも基本的体制方針の会議でも医療提供体制の充実について述べましたが、「すぐにはできない」というのが分科会長の尾身先生のご意見でした。

「それではいつやるのか?」と思っていましたが、そういった経緯があり、分科会からは提言していません。

土居 なるほど、なかなか提言すること自体が難しかったのですね。

大竹 分科会ではなかなかテーマに入らないので、2021年の夏に私と慶應義塾大学の小林慶一郎さんとで、医療提供体制の充実のための提言(コロナ医療体制、2倍以上の拡充を求める緊急提言)を東洋経済オンラインに出しました。

補助金を出して通常の収益ぐらいまでにし、それを超えたら返してもらうというのが基本的な案でした。その後、補助金制度はつくられたのですが、返金するという仕組みが完全になくなった形で実施されてしまいました。この点については非常に忸怩たる思いがあります。

土居 そうだったんですね。

大竹 そして、伊藤さんがご論考「医療における有事対応」で書かれていたとおり、コロナ診療だと保険点数が何倍にもなるなど、医療提供体制充実のために莫大な補助金が医療機関に出されました。

しかし、「まん延防止等重点措置」のときだけ認められているものや、特措法対象のときだけ認められるというものも多かったため、それがまん延防止を長引かせる原因になってしまいました。5類感染症に移行するタイミングもそれが理由で遅くなってしまったのです。

補助金システムをうまく設計できなかったことから、かえって行動制限期間を長くしてしまったことは間違いありません。

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