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文明とはプラットフォームであり、異なる文化や言語、習慣をもっている人々が相乗りできる。そもそもモンゴルがどのような国であり、なぜ中国とつながるのか。モンゴル学者の小長谷有紀・国立民族学博物館名誉教授に『アステイオン』編集委員の岡本隆司・京都府立大学教授と田所昌幸・国際大学特任教授が聞く。
岡本 私は梅棹忠夫先生の「文明の生態史観」に強く憧れ、歴史学・世界史に転化昇華できないかと考えながら東洋史学を研究してきました。拙著『世界史序説』(ちくま新書)で試みましたが、いわば民族学者に教えられて歴史家がその見方を再考したものです。遊牧社会に関わる民俗学や文化人類学を歴史学にもっと生かせないかと改めて考えています。
そのため今昔の中国・世界を知るには、モンゴル学者である小長谷先生のお話をおうかがいする必要があるとずっと思っておりました。
しかし、『アステイオン』の読者は、今回の特集のテーマが中華・中国であるにもかかわらず、なぜモンゴルなのか、別の国ではないかと思われるかもしれません。
日本は農耕社会なので、モンゴルや遊牧はあまり馴染みがありませんでした。今はお相撲さんがおなじみですが、モンゴルの力士は強いというイメージ以外持っていない人も多いと思います。
モンゴルがどのような国で、なぜ中国とつながるのか。まず小長谷先生に自己紹介を兼ねて、ご研究の内容をご紹介いただき、それを手がかりに話を広げていければと思います。
小長谷 お招きくださいまして、ありがとうございます。実は日本は国際的にモンゴル研究に強い国です。その基本は東洋史学や言語学といった文献学です。その言語学自体もフィールドワークではなく、文献学としての言語学が強かったのですが、そこに文化人類学が入ってきました。その始まりは梅棹忠夫先生以前の戦前にすでにありました。
しかし戦後、モンゴルが社会主義圏になってからは長らくフィールドワークができなくなってしまいます。私が勉強を始めた1970年代の一般的な日本人の知識としては、モンゴルといえばチンギス・ハンくらいでしかありませんでした。
そんな中で留学してみると、それ以外のモンゴル、そしてまだ日本では書かれていないことのほうが多いことが分かったのです。
留学した時点では研究者になるつもりはありませんでしたが、モンゴルの地で初めて研究者になろうと思いました。ですから、文化人類学的なモンゴル研究をプラスすることで、チンギス・ハン以外にもモンゴルを語れるようになることが私の目標でした。
岡本 なるほど、留学先で初めて研究者になるとご決断された、と。具体的にはどのような研究をされたいと思われたのでしょうか。
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