piskunov-iStock
国際関係論は比較的新しい学問である。独立した学問領域としての成立は第一次大戦後のことであり、本格的な発展を見せたのは、第二次大戦後になってからであった。
かつてない規模の戦争とその後の冷戦の時代において国家と国家の関係、あるいはグローバルな政治現象を扱うこの新興の学問は、国際秩序におけるパワーを対象とするために、実際の世界において中心的な位置を占めるいわゆる欧米の国々を主な事例とすることがほとんどであった。
特定の事例や地域に依拠しない普遍的な知見として語られる「国際関係論」が、実際には西洋諸国の研究者によって、西洋諸国の事例をベースにして構築された理論の集積であったことは否めない。
しかしながら、(これ自体もはや使い古された言説となりつつあるが)現代世界において、こうした前提がもはや通用しないことは明らかである。依然としてアメリカは世界最大のパワーを有する国家であり、ヨーロッパ諸国は国際規範や経済協力といった面でリーダーシップを発揮してはいるものの、今やアメリカにとって最大のライバルは中国であり、インドやブラジルといった台頭する地域大国の影響力を無視することはできない。
戦略的資源を握る産油国は、時にアメリカの意向すら軽視した政策をとることがある。重心がシフトした世の中において、これまでのような西洋偏重の国際関係論は現実の国際秩序をもはや十分に説明できず、したがってその理論についても体系的な修正を行う必要があるという声は、無視できないものになっている。
このような問題が大々的に提起されたのは、2007年に日本国際政治学会の英文ジャーナルであるInternational Relations of the Asia-Pacific誌に掲載された、アミタフ・アチャリアとバリー・ブザンを編者とする「なぜ非西洋の国際関係論が存在しないのか?」(Why is there no non-Western international relations theory?)というタイトルの特集号においてであった。
国際関係論における西洋中心主義(Eurocentrism)の問題を指摘し、アジアを主な対象として現状とそれを打破する方策について議論したこの論文集は後に書籍化され、「非西洋国際関係論」(Non-Western International Relations)という分野の誕生につながった。
その後アチャリアとブザンは、西洋と非西洋の対立関係よりも両者を包括した枠組みを模索するために「グローバル国際関係論」(Global International Relations)という新しい名称を用いつつ、西洋中心主義を相対化する必要性を訴え続け、最近では国際関係論という分野の歴史を振り返る新著、『グローバル国際関係論の成立:国際関係論の起源と発展の100年史』(The Making of Global International Relations: Origins and Evolution of IR at Its Centenary)を2019年に上梓した。
The Making of Global International Relations: Origins and Evolution of IR at Its Centenary)
Amitav Acharya, Barry Buzan[著]
Cambridge University Press[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
vol.101
毎年春・秋発行絶賛発売中
絶賛発売中