ヨーロッパとその他の地域における秩序をあくまで異なるものと位置づけるスプルートに対して、フィリップスは、両者の共通点に着目する。上掲書は、ムガル・清・イギリスという3つの勢力が、外から来た征服者としてどのように支配を拡大し、広大な帝国を樹立するに至ったのかを、共通の枠組みを用いて説明している。
ヨーロッパの帝国と対置する形で「現地」の勢力と見られがちなアジアの帝国を「侵略者」として捉え、ヨーロッパとアジアの帝国を同一の理論によって説明するアプローチは斬新である。
フィリップスは、これら3つの帝国は単に軍事力によって強制的に相手を屈服させたのではなく、現地の文化や制度を援用しながら、被侵略者との間に新しい共通のアイデンティティを形成して協力者を獲得することで、帝国の支配を確立していったのだと主張する。
「西洋の台頭」や「東洋の没落」をテーマとする研究は近年グローバル・ヒストリーや国際関係論において増えつつあるが、本書はこうした研究蓄積に新たな一ページを加えるものである。
How the East Was Won: Barbarian Conquerors, Universal Conquest and the Making of Modern Asia
Andrew Phillips[著]
Cambridge University Press[刊]
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ザラコルは、東洋の国際関係史がヨーロッパとの関係に特別な重点を置いて理解されてきたことを批判し、ヨーロッパに依拠しない形でその独自の国際秩序を説明する。
彼女の主張は、モンゴル帝国がユーラシアの広い範囲を支配下に置いた13世紀から17世紀の間、現在の中国・ロシア・中央アジアにあたる地域には、大ハーンへの権力集中と普遍的な主権の概念、国家ではなく「ハウス」(モンゴル語ではウルス)を単位とする秩序などを特徴とする、「チンギス的主権」(Chinggisid sovereignty)が広く共有されていたというものである。
ヨーロッパの「ウェストファリア的主権」とは異なるこのチンギス的主権の概念を共有する形で、ヨーロッパ勢力による支配を受けるはるか以前から、ユーラシアは国際秩序を構成していたのだという。これまでの研究はヨーロッパにおいてのみ主権という観念が存在し、それ以外の地域にはなかったという、主権の「有無」を両者の違いと考えていたが、ザラコルは主権の「性質」が相違点であり、どちらにも主権の概念は存在したと主張する点が新しい。
Before the West: The Rise and Fall of Eastern World Orders
Ayşe Zarakol[著]
Cambridge University Press[刊]
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vol.101
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