今年[編集部注:2022年]になって、国際関係論で最大の学会であるInternational Studies Associationに新たにグローバル国際関係論分科会が成立したという事実にも、こうした議論の盛り上がりを垣間見ることができる。
ところで、近年の世界がもはや西洋中心主義的な理論では十分に説明できないと上では指摘したが、ではそれ以前の世界がこうした理論によって説明できるのかといえば、それも疑わしい。
というのも、実は西洋の非西洋に対する優越というのは、たかだかこの2世紀程度しか遡ることができない「最近」の現象であり、それ以前の世界においてヨーロッパはむしろ「後進的」な地域だったからだ。
国際関係論がパワーに重きを置き、その重心がかつては非西洋にあったのであれば、非西洋の事例に基づいた国際関係理論の修正を志向する研究者が「西洋の台頭」以前の非西洋に着目するのは、極めて自然な流れであるといえよう。
本稿で取り上げるのは、こうした国際関係論の近年における潮流の中に位置する、ヘンドリック・スプルート『想像の世界:中華・イスラーム・東南アジアの国際社会における集団的信念と政治的秩序』(Hendrik Spruyt (2020), The World Imagined: Collective Beliefs and Political Order in the Sinocentric, Islamic and Southeast Asian International Societies)、アンドリュー・フィリップス『東洋はいかにして獲得されたか:野蛮な征服者、普遍的な征服と近代アジアの誕生』(Andrew Phillips (2021), How the East Was Won: Barbarian Conquerors, Universal Conquest and the Making of Modern Asia)、アイシェ・ザラコル『西洋以前:東洋的世界秩序の興亡』(Ayşe Zarakol (2022), Before the West: The Rise and Fall of Eastern World Orders)の3冊である。
紙幅の都合でそれぞれの内容を詳しく紹介することはできないが、これらの3冊は個別に捉えるよりも全体として1つの潮流を成していると考える方が理解しやすいため、国際関係論におけるトレンドを明らかにする意味でも、まとめて取り上げることとしたい。
スプルートは、これまでの研究において、規範やルールを共有する国家の集合体としての「国際社会」(international society)の概念がヨーロッパにだけ適用され、非ヨーロッパが閉鎖的でイノベーションに乏しく、ヨーロッパ的な主権国家体制とは相容れない秩序として捉えられてきたことを批判する。
上掲書は中国・イスラーム世界・東南アジアという3地域を事例に、非ヨーロッパ世界にもそれぞれの「国際社会」が存在し、外部との盛んな交流があり、ヨーロッパ的な主権国家体制への対応も柔軟に行っていたと主張する。
スプルートは軍事力などの物理的な要素ではなく、国際社会全体で共有される「集合的な信念」によって国際システムを区分し、上記3地域における国際社会のあり方を解釈主義のアプローチを用いて分析している。
Hendrik Spruyt
Cambridge University Press[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
vol.100
毎年春・秋発行絶賛発売中
絶賛発売中