2022年2月20日、ロシア情勢を受けてバイデン大統領は国家安全保障会議(NSC)を招集 REUTERS
ロシアのウクライナ侵攻を機に米国の指導力が再評価されている。米国は没落していないし、退却もしていない、と。頼りになるのはやはり米国だ、と。
アフガニスタン撤退をめぐる混乱を目の当たりにした後だっただけに、より強くそう思う向きも多いようだ。
ただ、私には一抹の不安もある。
まず気になるのは昨年12月の米露首脳会談(オンライン)の翌日、「ロシアがウクライナに侵攻しても米軍を派遣しない」とジョー・バイデン米大統領が早々に言明したことだ。
派遣しない諸々の理由は理解できるとしても、敢えて派遣の可能性を否定しないことでロシアの行動に一定の抑止を与えることもできたはずだ。
バイデン大統領はアフガン撤退の際も撤退期限の延長可能性を明確に否定している。敢えて含みを残しておくことでタリバンの行動を牽制する「戦略的曖昧さ」という選択肢もあったはずだ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はバラク・オバマ米大統領(当時)がシリア介入の公約を反故にしてから半年ほど過ぎたタイミングでクリミア併合に踏み切っている。
今回も「民主化」の理念を半ば放棄する形でアフガン撤退を急いだバイデン大統領の姿に米国の弱さを見出し、さらに「米軍を派遣しない」とのコメントを受け、ウクライナ侵攻を決断したとしても不思議ではない。
これは米民主党政権の問題なのか。いや、そうではない。
そもそもアフガン政府の関与もないまま、タリバンと直接交渉し、2021年5月までの完全撤退に合意したのは共和党のドナルド・トランプ前大統領である。トランプはロシアのウクライナ侵攻直後、米国の保守系ラジオ番組に出演し、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認したプーチン大統領のことを「天才だ」「愛国者だ」などと称賛している。
トランプは今秋の米中間選挙の候補者選びなどを通して、依然、党内の影響力を保持しており、米国第一主義(アメリカ・ファースト)の外交・安全保障観は想像以上に広く浸透している。
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