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アメリカ

「民主党vs共和党」より世界に影響を及ぼす、アメリカの「もう1つの分断」

2022年12月07日(水)08時08分
渡辺 靖(慶應義塾大学SFC教授)

加えて、近年、存在感を増しているリバタリアニズム(自由至上主義)は国家(政府)による個人の自由の制約を嫌うという意味でグローバリズムを支持するものの、政府権限や財政支出の拡大やナショナリズムの高揚を伴う対外介入には批判的だ。

つまり、米国の覇権衰退が指摘されるなか、米政治は中道派が求心力を増すどころか、むしろ対外介入に懐疑的な民主社会主義や自国第一主義、自由至上主義などが遠心力を強める傾向にある。これは「民主党対共和党」といった二項対立より、さらに複雑な分断(分裂)であり、政治的なトライバリズム(部族主義)とも言うべき状況に近い。

最近、ワシントンではトランプ前政権の高官らを中心に「米国第一政策研究所」(AFPI)が、さらには民主社会主義系の大富豪ジョージ・ソロスとリバタリアニズム系の大富豪チャールズ・コークらの共同出資による「責任ある国家運営のためのクインジー研究所」(Quincy Institute for Responsible Statecraft)がそれぞれ設立されている。

政策的な処方箋は異なるが、米国の野心的な介入主義がもたらす弊害に警鐘を鳴らすという点では一致しており、知的インフラとしても無視できない存在になりつつある。ちなみに「クインジー研究所」の名称は第六代大統領ジョン・クインジー・アダムズ(第2代大統領ジョン・アダムズの息子)に由来する。

アダムズは国務長官だった1821年の外交演説で「米国は怪物退治のために海外に行くことはしない」と抑制的な姿勢を打ち出し、その後のモンロー主義(不干渉主義、非介入主義)を形作ったことで知られる。

米国の覇権に関しては、新興国の台頭やアクターの多様化などをもとに「相対的な低下」を指摘するのが一般的だが、私にはこうした反中道派的な遠心力の影響がより気になる。

もちろん、「民主党対共和党」の対立も重要だ。2020年夏にシカゴ・グローバル評議会(CCGA)が行った世論調査では、「米国にとっての脅威」として、民主党支持者が新型コロナウイルス、気候変動、人種不平等などを挙げたのに対し、共和党支持者は中国や国際テロ、移民・難民を指摘している。

課題上位5項目が交わることはなく、互いに世界の見え方そのものがパラレルワールドの様相を呈している。

こうした状況が続けば、政権交代のたびに優先課題のブレ幅が大きくなり、国家としての戦略的意志の継続が困難になる。つまり米国の分断状況は単なる内政問題ではなく、もはや国際社会における不安定要因になりつつあるということだ。

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