アステイオン

座談会

人柄と語り口が武器になる時代──「ネット論壇」は本当に可能か

2022年01月21日(金)15時55分
大内悟史+小林佑基+鈴木英生+田所昌幸+武田 徹

■大内 論壇の記事を書こうとして困ったときに『アステイオン』にはとても助けられています(笑)。

昨年末(編集部注:2020年)、朝日新聞夕刊で論壇の1年を振り返る記事「(回顧2020)論壇 専門知、問われた生かし方」を初めて書いたのですが、山崎正和さんの訃報と東浩紀さんのゲンロンの活動をつなげて論じるときに大いに参照しました。

生のニュースの激しい動きの底流にあるものを探り当てようと、きちんと練られた論考がバランスよく配置されていて、じっくりと読んで考えを深めることができます。「正義と開かれた議論についての公開書簡」などのキャンセルカルチャーの議論(93号)も印象に残っています。

お願いしたいことは、例えば経済の専門家とサイエンスの専門家とジェンダーの専門家、あるいは現場で実践している方など、学問領域を複数またがって大きな問題を扱う場を提供していただきたいということです。

■小林 ほかの月刊誌は時事性を重視しているため、数カ月経つと議論が古くなってしまいます。しかし、『アステイオン』は、例えば文明など大きな視点で議論をしているのであまり古びない印象があります。

近年、論壇でもSNSにひきずられる形で左右の分極化が激しくなっている、と感じます。そうなると欧米のように社会も分断し、ポピュリズムがさらに激しくなりかねない。言論の先細りを防ぐためにも、『アステイオン』には総合性や中庸性を追求し続けてもらいたいと思っています。

あとは、お酒を飲みながら3、4時間ぶっ通しで議論をしたものを掲載するというような、多少のお行儀の悪さもあっていいのではないでしょうか?(笑)

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田所昌幸(Masayuki Tadokoro)/1956年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。京都大学法学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学。京都大学大学院法学研究科博士課程中退。博士(法学)。専門は国際政治学。主な著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『越境の政治学』(有斐閣)、『社会の中のコモンズ』(共著、白水社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など。

■田所 長いスパンで物事を議論している点をお褒めいただきましたが、違う立場の人を同じ土俵に乗せて、会話を成立させるのが本来の議論の在り方で、アカデミズムとはそういう場所です。それがいろいろな意味で難しくなっていることは私自身の問題意識でもあります。

しかし、『アステイオン』は賛成反対はともかく、違う意見を持つ人が対話できるように、議論の作法に物すごく心がけています。では、鈴木さんはいかがでしょうか。

■鈴木 論壇担当をやっていると、1〜2年で雑誌を処分しますが、『アステイオン』は古いものも含めて残るのが他誌とは異なるところです。

『世界』や『現代思想』はまた別の世界に行ってしまい、先ほどウェブの話でもお話ししましたように、ウェブ専従記者が通常では論壇では扱わないような人のインタビューや尖った記事を書くなど、マスメディアの感覚もだんだんと麻痺してきています。

僕自身は、思想信条的に中道的な場所をつくっていくことがとても大切だと思っているので、その基盤になる雑誌の1つが『アステイオン』です。

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