アステイオン

座談会

人柄と語り口が武器になる時代──「ネット論壇」は本当に可能か

2022年01月21日(金)15時55分
大内悟史+小林佑基+鈴木英生+田所昌幸+武田 徹

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鈴木英生(Hideo Suzuki)/1975年生まれ。毎日新聞東京本社オピニオングループ専門記者。京都大学経済学部卒業。2000年毎日新聞社入社。青森支局、仙台支局、学芸部などを経て、現職。著書に『新左翼とロスジェネ』(集英社新書)など。

■鈴木 丸山眞男でいうところの「夜店」の仕事ですよね。丸山の本来の専門は実社会から遠く離れたところにありましたが、あえてメディアで発言しました。そういう余裕が今の大学で、特に若手にはないというのは私自身、研究者の友人が多いので理解しています。

また、先ほど長い記事を書かなくてはいけないというお話がありましたが、実際、ウェブのほうがビビッドな反応が来ます。読みたい人が読みに来ているという感覚が得られるので、そういう意味では面白いですし、どうしてもそっちに気持ちも流れていきます。

しかし従来、研究者に取材して記事を書いていたのは論壇担当やオピニオングループでしたが、ウェブ専従記者が次々とインタビュー記事を書くようになっています。そうなると、よくも悪くも「さすがにこの人を新聞に出したらまずいだろう......」というような人が大きくインタビュー記事になることも起きています。

そういう目利きや判断がつかなくなっていることも、論壇の輪郭がぼやけているという話につながっていると思います。

インターネットと論壇

■田所 インターネットは、我々研究者も意識せざるを得なくなっています。今やユーチューバーをやっていたほうが世間では認知度が高い。大学もコロナ禍でオンライン授業が増えていますが、「ユーチューブに上がっている〇〇という番組のほうが、よほどためになるし面白い」という時代がすぐ来るかもしれません。そうすると、アカデミズムとジャーナリズムの今後の仕事はどうあるべきでしょうか。

■大内 学問もメディアも、今まで重要なテーマだと思われていなかったものをすくい上げる、つまりアジェンダ設定をすることが役割の一つだと思います。

赤木智弘さんの「『丸山眞男』をひっぱたきたい」をきっかけの一つとして、当時の論壇では格差や貧困、若者論のムーブメントが起きました。

赤木さんは僕が学生時代から10年以上読んでいたブロガーの一人でしたが、ある時、名前を匿名から実名に変えて、フリーライターとして活動したいと宣言されました。彼が武田さんの教え子だということも知っており、オリジナリティのある議論ができる人であることもわかっていました。

ならばぜひ論壇の場で問題提起してほしい、しかも自分自身と同世代の就職氷河期世代がいかに報われない苦悩を抱えているかを伝えるのは編集者の使命だと思いました。

このように新しいアジェンダ設定につながるきっかけをつくることが、論壇が今でもできることの大きな仕事であり、機能の一つなのではないかと思います。

今後は、ネットの論壇でも動画配信が加速していくと思います。実際、研究者が多数出演されている「国際政治チャンネル」、東浩紀さんの「シラス」、津田大介さんの「ポリタスTV」もそうですし、この秋(編集部注:2021年)から苅部直さんや会田弘継さんが「ことのは」という動画の論壇サービスに加わる動きもありますよね。

ただし動画の論壇は、見過ごされていた切実な声を拾うというよりは話芸に秀でた著名人のスピーチに近くなり、より生身の人間性や声の魅力などに左右されるのではないかと思います。

東浩紀さんはお酒が入ったときの発言も含めて、魅力的な人柄と語り口がウケている面もある。司会業としての芸達者なところや、ずばっと一言で表現する切れ味の鋭さなどの能力が要求される場に、論壇記者はどう関わったらいいのか......。

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