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30秒以内に検知...受精卵で父親由来のミトコンドリアが「消される」仕組みが明らかに
(写真はイメージです) nobeastsofierce-Shutterstock
<群馬大の佐藤美由紀教授、佐藤健教授と徳島大の小迫英尊教授らによる研究チームが、線虫の体内を動画撮影し、受精直後に父性ミトコンドリアがオートファジーで選択的に食べられて除去される様子を確認。これにより、ミトコンドリアのどのような謎が解明されたのか。「オートファジーの仕組み」もあわせて紹介する>
ミトコンドリアは、ほぼ全ての真核生物の細胞中に存在する細胞小器官(オルガネラ)の1つで、細胞にエネルギーを供給する重要な役割を担っています。内部には細胞の核に含まれるDNAとは別の、独自の遺伝情報を持つDNA(ミトコンドリアDNA)を有しており、ある程度は自立的に細胞内で分裂して増殖できます。そのため、ミトコンドリアの起源は、進化の初期に細胞内に好気性細菌が取り込まれて共生したものであるという説が有力です。
生物個体の遺伝情報を担う核のDNAは、父親と母親からコピーされてそれぞれ1セットが伝わり、2セットで1組となっています。一方、ミトコンドリアDNAには同じコピーが多数存在しており、例えばヒトでは細胞あたり103〜104コピーも含まれています。しかも、その全てが母親由来の遺伝、つまり「母性遺伝」という特徴があります。
では、なぜ、父親由来のミトコンドリアDNAは消えてしまうのでしょうか。
群馬大・生体調節研究所の佐藤美由紀教授、佐藤健教授と徳島大・先端酵素学研究所の小迫英尊教授らによる研究チームは、モデル動物の線虫を用いて、受精後に父性ミトコンドリアが入ってきたことを瞬時に検知し、「オートファジー(細胞の自食作用)」によって分解・除去されている様子を動画撮影しました。研究成果は、オープンアクセスの科学学術誌「Nature Communications」(2月17日付)に掲載されました。
発生初期に受精卵をリアルタイムで撮影した動画は、ミトコンドリアのどのような謎を解明したのでしょうか。日本人がノーベル賞を受賞した「オートファジーの仕組み」についても概観しましょう。
『パラサイト・イヴ』で知れ渡ったミトコンドリア・イブ説
ミトコンドリアDNAは、性をもつ多くの動植物で必ず片親(大多数は母親)からのみ遺伝します。
1987年、カリフォルニア大バークレー校の分子生物学者アラン・ウィルソン博士らは、できるだけ多くの民族を含む147人のミトコンドリアDNAの塩基配列を解析しました。その結果、約15万年前のアフリカのある女性が、現在の人類の全てのミトコンドリアの「母親(起源)」であるとの仮説を発表しました。この女性は、旧約聖書のアダムとイブになぞらえて「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれています。
ミトコンドリア・イブ説は、瀬名秀明さんのSF小説『パラサイト・イヴ』(1995年、角川書店)によって、一般にも広く知れ渡りました。細菌共生説とミトコンドリア・イブ説に基づいて、架空の「ミトコンドリアの反乱」を描いた物語は100万部を突破し、映画化やゲーム化もされました。
ミトコンドリアがなぜ母親由来の遺伝情報のみを持つのかについては、かつては受精時に精子の頭部だけが卵子に入り、ミトコンドリアを含む中片部や尾部は入らないからであると説明されてきました。
けれど、これはチャイニーズハムスターなどの一部の生物に見られる特殊なケースで、90年代後半には、多くの生物で精子のミトコンドリアが受精卵に侵入することが確認されました。
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