コラム

日本が月面着陸に初成功、世界で5カ国目の快挙も「60点」評価のワケ...太陽電池が機能しないことによるミッションへの影響とは?

2024年01月20日(土)17時25分

JAXAは、宇宙開発における他国との関係を説明する際に「競争と協力」という言葉をよく使います。アルテミス計画のような国際プロジェクトで協力をしつつも、日本独自の技術力で宇宙開発において優位な立場を築きたいという意味でしょう。

ピンポイント着陸が成功していれば、月面基地の拠点候補でありながら険しい地形で着陸が難しいとされる極域へのアプローチに、大いに貢献できます。國中所長は、「月面でピンポイント着陸が成功すれば、火星探査でも同規模のピンポイント着陸が期待できる(※)」と将来を見据えて力を込めました。

※地球からの距離(月の約38万キロに対し、火星は最も接近したときで約5500万キロ)や重力(月は地球の6分の1、火星は地球の3分の1)が異なるため、月で100メートル以内のピンポイント着陸を行えたとしても、同じ技術で火星でも100メートル以内が達成できるとは限らないため、「同規模」という言葉を使ったと思われる。

 

JAXAが事前に公開したSLIM計画の「サクセス・クライテリア(成功基準)」によれば、ミニマムサクセスは月面着陸成功、フルサクセスは精度100メートル以内の高精度着陸の達成です。

エキストラサクセス(着陸後、日没までの一定期間の月面探査活動の達成)こそ成し遂げられませんでしたが、フルサクセスの達成が濃厚であるにもかかわらず、記者会見で登壇した山川宏理事長、國中所長、藤本正樹・同副所長には笑顔がありませんでした。そのことを記者から指摘されると、「太陽電池のことが、気になって仕方がない」とのコメントもありました。

世界で宇宙開発が激化する中で、日本は「地球外でも、探査目的に合わせて着陸する場所を選ぶ時代」を先導できるでしょうか。「計画どおりの完璧な成功」以外には満足を示さないJAXAのトップたちの姿に、「やってくれるのではないか」と期待する人も多いのではないでしょうか。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story