コラム

日本が月面着陸に初成功、世界で5カ国目の快挙も「60点」評価のワケ...太陽電池が機能しないことによるミッションへの影響とは?

2024年01月20日(土)17時25分

着陸の様子はJAXAのYouTubeチャンネルでライブ配信されました。視聴者にも共有されたテレメトリー(遠隔測定)画面上で、SLIMは計画軌道をほぼ正確にトレースし、午前0時20分に予定通り月面に到達しました。

記者会見では、SLIMは着陸後も通信を確立しており、地球からのコマンドも正常に受信したことが発表されました。また、搭載していたカメラ付き超小型探査機「LEV-1」および「LEV-2」の分離も確認したということなので、SLIMの月面着陸は成功と言えます。ただし、直後に全機器についてチェックをしたところ、太陽電池が発電していないことが分かったそうです。

 

國中所長は「軌道上では太陽電池パネルは正常に作動しており、着陸時に太陽電池パネルだけに損傷を受けることは考えづらい」と語り、「太陽電池が駆動しなかったのは、太陽光パネルが想定した方向を向いていない可能性がある」と説明しました。

SLIMは、計画の段階では円筒形にして全周に太陽光パネルが付いている形態も検討されましたが、最終的には斜面に降りることなどが考慮されて、自発的に倒れ込んでカメのような形になる案が採用されました。

甲羅にあたる部分のみに太陽光パネルが付いているため、たとえば引っくり返って甲羅が下になってしまって太陽光がパネルに当たらない場合は、太陽電池が発電しない可能性があります。

JAXAはSLIMプロジェクトの説明資料で、もともと「着陸が成功したかどうかはすぐに分かるが、ピンポイント着陸の判定については着陸時のデータやSLIMが撮影する付近の画像の解析が必要なので1カ月程度かかる」としていました。

今回、太陽電池の機能が復旧しないとしても、ピンポイント着陸が成功したかどうかの判定が難しくなることはほぼないとし、國中所長は「肌感覚として100メートル精度のピンポイント着陸は成功した可能性が高い」と現時点での見解を伝えました。

今後については、バッテリーが枯渇して探査機本体の機能が失われたとしても、太陽の向きが変わってSLIMの太陽電池に光が当たれば発電して復旧する可能性もあると言います。また、現在のSLIMの姿勢や状態は、分離したLEV-1やLEV-2が月面でSLIMの写真を撮っている可能性が高く、原因解明に役立てられることが期待されます。

2)月の起源の解明への打撃

太陽電池の機能喪失による影響は少ないと思われるピンポイント着陸の判定に対して、着陸後に行う予定だった「マルチバンド分光カメラによるカンラン岩の観測」は大きな打撃を受けそうです。

月がどうやってできたのか、なぜ地球は「大きすぎる衛星」を持っているのかについては、今もなお謎に包まれています。

月の起源には諸説あり、約46億年前の地球ができてまもなくの時代に、地球に火星ほどの大きさを持つ原始惑星「テイア」が衝突し、地球軌道に飛び散ったテイアの破片と地球マントルの破片が合体して月になったとする「ジャイアント・インパクト(巨大衝突)説」が最有力です。昨年11月には、米カリフォルニア工科大などの研究チームが地球内部にテイアの残骸が残っているとする説を英科学誌「ネイチャー」に発表し、話題になりました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBは当面政策維持を、生産性頼みは尚早=カンザス

ワールド

米雇用統計「素晴らしい」、米は借入コスト減らすべき

ワールド

米が制限順守ならロシアも同調、新START失効でラ

ビジネス

1月米雇用、13万人増と1年超ぶり大幅増 失業率4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story