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規制と開発の「いたちごっこ」...大麻グミ問題から見る、危険ドラッグ取締りと活用の歴史
日本で最も古くから入手しやすかった麻薬は大麻です。大麻は植物の麻の花冠や葉を乾燥させたもので、日本では約1万年前の縄文時代の遺跡から麻が布や縄として利用されていた痕跡が見つかっています。麻の渡来ルートである北アジアでは、遊牧民が古くから繊維の原料としてだけでなく、鎮静効果や弱い幻覚作用を利用していたことが知られています。
縄文人が麻を麻薬として使っていた証拠を突き止めることは難しいですが、これらの効果を知っていた可能性はあるでしょう。
「アヘン」の原料となるケシは、室町時代にインドから渡来しました。ケシの実の汁は強い鎮痛作用を持つため、古来、医療用として使われていました。中国では17世紀の明代末期から嗜好品として吸引する習慣が広まりましたが、依存性が高く乱用すると廃人同様になる危険な薬でした。
一方、日本では一般人にアヘン乱用の習慣は、たいして広まりませんでした。それでも明治政府は1868年にアヘン禁止令を布告し、その中で「あへん煙草は人の生気を消耗し命を縮めるもの」と明記しました。
大麻やアヘンといったダウナー系の薬物乱用にはなかなか至らなかった日本人ですが、1941年にアッパー系である「ヒロポン」などが日本メーカーから市販されると、第二次世界大戦中には日本軍が兵士の疲労回復や士気向上に用いたり、軍需工場では工員を夜通し働かせるために使ったりしました。その後、51年に「覚醒剤取締法」が施行されるまでは市中に大量に出回り、「疲れがとれる」「勉強のときに眠くならない」などと一般に広く利用されました。
幻覚系の薬物は、世界ではマジックマッシュルーム、ペヨーテ(サボテン)などが紀元前から宗教儀式などに利用されていました。日本でも、『今昔物語』に自生する舞茸(※注)を食べて心ならずも踊った話が掲載されています。
※注:現在のマイタケではなく、マジックマッシュルームの1種と考えられている。
もっとも、世界で爆発的に広がる原因となったのは、強烈な幻覚作用を持つLSDの合成成功(1943年)と、60年代後半にLSDなどのドラッグを常用し独特のサイケデリック文化を醸成してムーブメントを起こしたアメリカのヒッピーの存在でした。その後は、MDMA(エクスタシー)、PCP(エンジェルダスト)など数々の合成幻覚剤が開発されて、日本でも一時期、若者を中心に広まりました。
近年は動物用麻酔薬として使われるケタミンが、幽体離脱のような感覚を得られると口コミが広がり、違法使用されていると言います。
規制と開発の「いたちごっこ」
23年8月に厚労省が発表した令和4年の薬物情勢によると、薬物で検挙された人の内訳は、覚醒剤が6289人、大麻が5546人、アヘンが3人、合成麻薬などを含む麻薬・向精神薬は783人となっています。
麻薬・向精神薬のカテゴリーで検挙された人は、思ったよりも少ない印象です。ただし、今回規制された「大麻グミ」に含まれているHHCHのように、新しい麻薬成分は登場当時には法規制されていないので「合法ドラッグ」や「パーティドラッグ」として広まり、それが社会問題化して規制されると、少しだけ構造を変えたさらに新しい麻薬成分が開発されるという「いたちごっこ」が続いています。
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