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ノーベル賞受賞はなくてもスゴかった! 2023年日本人科学者の受賞研究
とりわけ、がん治療では実用化が目前です。
体内では、血管と細胞の間には50ナノメートルよりもずっと小さな隙間があります。この隙間を通して、細胞は必要な酸素や栄養素を取り込みます。一方、がん細胞では周囲に血管が発達し、がん細胞との間に100ナノメートル程度の隙間ができます。そこを狙って抗がん剤を搭載したナノマシンを投与すると、正常な細胞は隙間が小さいのでナノマシンが通れず、がん細胞の周辺にだけ入っていきます。つまり、がんの患部に選択的に抗がん剤を届けることができます。これまでは、抗がん剤だけをそのまま投与すると、正常な細胞の小さな隙間も通れるので、抗がん剤が正常な細胞まで損傷してしまうという問題がありました。
また、脳には血液脳関門という異物をはじくシステムがあり、脳の患部に効率的に薬を届けることが難しかったのですが、ナノマシンの技術を使うと、カプセル部分を脳が能動的に取り込む「グルコース」に擬態させることで効率的に届けることができるといいます。
「受賞者がノーベル賞を獲得する可能性が高い賞」と言えば、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞の名も上がります。約半数の受賞者がノーベル生理学・医学賞を受賞しています。日本人では利根川進氏(米マサチューセッツ工科大教授)、山中氏がノーベル賞に先行して受賞してしますが、23年は日本人の受賞はありませんでした。
イスラエルのウルフ賞は、生理学・医学部門はノーベル賞、ラスカー賞に続く3位、物理部門と化学部門はノーベル賞に次ぐ権威があると言われています。日本人のノーベル賞受賞者では、生理学・医学部門で山中氏、物理学部門で南部陽一郎氏(米シカゴ大名誉教授)と小柴昌俊氏(東京大学特別栄誉教授)、化学部門で野依良治氏(名古屋大学特別教授)がこれまでに受賞しています。
23年2月、ウルフ賞化学部門に新たな日本人受賞者が現れました。
3.菅裕明
東京大学大学院理学系研究科化学専攻教授
「特殊ペプチド創薬」という概念の提唱者です。「生物活性ペプチドの創製を革新するRNA触媒の開発」により、23年ウルフ賞化学部門を受賞しました。ウルフ財団は「従来の方法だけでは不可能だった大規模で複雑な分子の構築が可能になった」と評価しています。
菅氏は「特殊ペプチド(アミノ酸化合物)」と呼ばれる概念を提唱しました。あらゆるアミノ酸およびアミノ酸誘導体を任意のtRNAと結合させることができる人工のRNA触媒「フレキシザイム」を開発し、1つの試験管内で医薬品の候補となりうる兆単位の特殊ペプチドをライブラリ化することに成功。さらに特殊ペプチドライブラリーから、標的分子に結合する特殊ペプチドを選択する、独自のスクリーニング手法も編み出しました。
特殊ペプチドは、従来の低分子医薬品、抗体医薬品(モノクローナル抗体)に次ぐ第3の医薬品として期待されています。低分子医薬品には結合すべきでない分子にまで結合しやすく副作用がでやすい、抗体医薬品には分子量が大きく生体免疫反応が置きやすかったり経口投与が困難だったりするという問題点がありました。中分子医薬品に分類される特殊ペプチドは、これらの問題点を低減できると言います。
菅教授らが開発した特殊ペプチドの関連技術は現在、各国の大手製薬企業に技術移管され、創薬が進められています。
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