コラム

ITに続き宇宙開発でも存在感増すインド、「科学技術指標」で見るその台頭と日本の現状

2023年09月02日(土)19時35分

IT人材の大量雇用は、インドの理系人材の大量育成にもつながり、米マサチューセッツ工科大(MIT)にならったインド工科大(IIT)、国立工科大(NIT)などで高度なコンピューターサイエンスの教育、研究がなされるようになりました。理系の新卒人材が毎年100万人輩出され、そのうち20万人がIT産業に携わるといわれています。

いまやインドでは、下請けを越えて独自のイノベーションに取り組むようになり、現在は1万を超えるスタートアップ企業が立ち上がっています。

スタートアップ企業には、宇宙開発に関するものも少なくありません。モディ政権は「自立したインド」を打ち出しており、宇宙開発事業を重要政策の1つとしています。

インドの宇宙開発は、ベンガルールにあるインド宇宙研究機関(ISRO)が主導しています。月探査機「チャンドラヤーン」の功績で広く一般に知られるようになりましたが、以前からロケットと人工衛星を自国で生産でき、他国の人工衛星の打ち上げも請け負っている、世界でも有数の宇宙開発国です。

94年に独自開発のロケットPSLVによって資源探査衛星と通信衛星の打ち上げに初めて成功すると、08年には月探査機「チャンドラヤーン1号」の月周回軌道への投入に成功し、探査活動を行いました。14年にはアジア初の火星周回軌道への衛星投入に成功しています。

インドの宇宙開発事業は中国をライバル視しており、ロシアや欧米諸国などとの国際協力も積極に行って世界の主導的立場に食い込もうとしています。

IT産業では残念ながらインドに遅れをとってしまった日本ですが、成功すれば日本初、世界で5番目となる月面着陸を目指す小型月着陸実証機(SLIM)などを搭載したH2Aロケットが、近々、種子島宇宙センターから打ち上げられる予定です(本来は8月28日に打ち上げられるはずだったが、天候不順で中止)。

この月面着陸では、日本は世界初となる誤差100m以内の"ピンポイント着陸"を目指しています。ぜひとも成功させて、宇宙開発事業では世界で存在感を示してほしいですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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