コラム

ITに続き宇宙開発でも存在感増すインド、「科学技術指標」で見るその台頭と日本の現状

2023年09月02日(土)19時35分

日本にとってインドが脅威なのは、人口や名目GDPだけではありません。

世界の科学技術の状況について「科学技術指標2023」を見てみると、研究開発費の産官学の総額は、日本は世界3位(1位アメリカ、2位中国)で18兆1000億円です。インドの研究開発費は18年のデータで約587億2000万米ドルとなっており、日本の3分の1、アメリカの10分の1で、イギリスを上回る規模です。

研究者の数で比較すると、日本は世界3位(1位中国、2位アメリカ)の70万5000人です。インドは18年のデータで約34万人なので日本の約半分の規模と言え、イギリスやフランスを上回っています。

ただし、GDPに占める研究開発費の割合(日本は3%超、インドは0.65%)や、人口100万人あたりの研究者の割合(日本は5000人超、インドは約250人)で比べると、インドの研究環境は決して恵まれているとは言えません。

ところが、「研究の成果数」や「研究の質」の指標では、インドは日本を上回っています。

自然科学の研究成果の公な発表の場である論文の数を、分数カウント法という計算法で19年から21年の3年の平均を評価すると、1位中国(46万4077本)、2位アメリカ(30万2466本)、3位インド(7万5825本)となり、日本は5位(7万775本)でした。

さらに、研究者たちに内容が注目されて多く引用されている論文、つまり重要な研究論文では、日本とインドの差は広がります。

引用回数のトップ10%にあたる論文数での1位は中国(5万4405本)で、2位アメリカ(3万6208本)、3位イギリス(8878本)と続きます。インドは6位(6031本)、日本は前年より1つ順位を下げて13位(3767本)でした。日本のトップ10%論文は、物理学、臨床医学、化学などの割合が高く、インドは臨床医学、コンピューターサイエンス、AIなどの割合が高いという特徴があります。トップ1%では上位3カ国(1位の中国は5516本)は変わらず、インドは8位(464本)、日本は12位(319本)でした。

毎年100万人の新卒理系人材を輩出

トップ10論文数からも分かるように、インドの躍進の大きな原因には「世界に先駆けて、IT産業やコンピューターサイエンスの研究が発展した」ことが挙げられます。

インドのIT産業の飛躍は、南部の都市ベンガルール(バンガロール)を中心に、アメリカのシリコンバレーの下請け産業として始まりました。ベンガルールは賃金が安く、人材が豊富で、しかも約半日(13.5時間)の時差があります。シリコンバレーの技術者がソフトウェアを設計してベンガルールに発注すると、寝ている間にソフトウェアが完成しました。つまり、時差による分業で実質24時間フル稼働することができたため、インドをオフショア(海外の業務委託地)とすることは都合が良かったのです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story