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ヒトの直立二足歩行の謎をAI分析で解明 「骨格のプロポーション」が鍵に
もっとも、直立二足歩行は良いことばかりではありません。
ヒトは腰痛になりやすく、重力の影響を受けやすいために他の動物ではほとんど見られない痔や胃下垂にも罹患しやすい傾向があります。脊椎動物では心臓や腹部、喉などの急所は胴体の前面にあるため、四足歩行の動物であれば地面との間に隠されるのに、ヒトでは常に晒(さら)されます。しかも、命に関わる急所である後頭部は、地面から高い位置にあるため不安定で、後ろに転倒すると危険です。
さらに、四足歩行の草食動物は生まれたばかりで立ち上がり歩行も可能ですが、ヒトが直立二足歩行をできるようになるのは生後1年前後です。ヒトの子供は自力で逃げられない、無防備な時期が長いという特徴があります。
ちなみに動物では、二足歩行自体はそれほど珍しい歩き方ではありません。ペンギンや一部の鳥類は常に二足歩行をします。ただし、ペンギンは脊椎と下腿骨(膝から足首までの骨)は地面に対して垂直に立てられますが、大腿骨は脊椎に対してほぼ直角で、常に膝を曲げた状態になっています。鳥類では二本の足で歩くものも多いですが、脊椎は地面と水平に近い角度です。常に直立で二足歩行することは、チンパンジーやゴリラなどの類人猿でもできません。
ヒトゲノムの145カ所が骨格形成に関与
今回の研究チームは、AIの機械学習を用いて、ヒトに特有な直立二足歩行を可能にした遺伝子を解明しようと試みました。
まず、英国バイオバンクの参加者3万人以上について、二重エネルギーX線吸収測定(DXA)で撮影した全身骨格の画像をAIに学習させて、すべての長骨(大腿骨、脛骨などの縦方向が幅よりも長い骨)の長さ、腰や肩の幅、骨同士の距離などを数値化しました。
次にそれぞれ骨格の特徴と参加者の遺伝子配列とを照らし合わせて、相互の関係を評価しました。その結果、ヒトゲノムの145カ所が骨格形成に関与していて、「骨格のプロポーション」をコントロールしていることが分かりました。また、すべての骨格のプロポーションは、遺伝性が高い(約30~50%)こと、四肢の比率は体の幅や胴の長さの比率とは相関していないことも示されました。
さらに、ヒトの腕と脚と腰の幅の比率が進化的に変化したことを示す遺伝子の証拠も見つかりました。これは化石を使った形態学的な研究の結果と一致しています。また、骨格のプロポーションに関する遺伝子は、心血管や自己免疫、代謝などの他の形質とは対照的に、ヒトと類人猿の間では著しく異なっていました。
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