コラム

SDGs達成度ランキング2023で指摘された、日本が世界水準になれない理由

2023年06月28日(水)11時20分

・目標12「つくる責任つかう責任」

「プラスチックごみ」の排出量や輸出量が低評価につながりました。日本は、きれいに分別されたプラスチックごみは自国内でリサイクルできます。しかし、汚れが付着したり異物が混入したりしたプラスチックごみは、リサイクルのためには分別と洗浄の前処理が必要です。国内で処理しようとすると人件費がかさむために、日本はマレーシアやベトナムなどに「資源ごみ」として輸出して処理してもらっています。

また「電子ごみ(中古利用されずに廃棄物となった家電製品や電子機器の総称)」の多さも、日本が抱える課題の一つとされました。

・目標13「気候変動に具体的な対策を」

化石燃料の燃焼やセメント製造で排出される二酸化炭素(CO2)が未だに多いことが、具体的な対策が停滞していると判断されました。

・目標14「海の豊かさを守ろう」

周りを海に囲まれた日本で、この項が最低ランクなのは意外かもしれません。しかし、海の汚染度や漁獲量、生物多様性などから、海の健全度を総合的に評価して数値化した「海洋健全度指数(Ocean Health Index)」で低い評価を受け、魚の乱獲なども指摘されました。

・目標15「陸の豊かさも守ろう」

生物多様性のために必要な陸地や河川地域の保護が不十分であることや、レッドリスト指数(生物種群の絶滅リスクを指数化したもので、0~1の数値の中で値が小さいほど種群の絶滅の恐れが大きい)の値が芳しくないことなどから、低評価を受けました。

順位だけでなくスコアも落ちてきたことの意味

日本のSDGs達成度ランキングは、18年から21年にかけては順位こそ下げているものの、スコアは上昇していました。つまり、他国の達成スピードには及ばないものの、日本の達成度は上がり続けていると見られていたことを示します。

しかし、22年から順位だけでなくスコアも前年より落とすようになったということは、日本のSDGs達成に向けた取り組みは、停滞あるいは後退していると評価されたことを意味します。

今回のランキングで低評価を受けた課題は、政府主導で改善に取り組むことも大切ですが、ジェンダー格差の解消を意識し、プラスチックごみや電子ごみを減らし、環境保全に取り組むことなどは、個人でも具体的なアクションが可能です。

SDGsの折り返しの年となる23年は、9月に国連加盟国が集まってSDGs達成に向けての優先事項を議論することになっています。国際社会でSDGsの進捗を推進し、さらに日本がリードする立場になるためには、現状の分析と有効な資金の分配とともに、国民一人ひとりが意識を高めることも必要となるでしょう。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国自動車ショー、開催権巡り政府スポンサー対立 出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story