コラム

SDGs達成度ランキング2023で指摘された、日本が世界水準になれない理由

2023年06月28日(水)11時20分
ビニール袋

プラスチックごみの排出量や輸出量が目標12「つくる責任つかう責任」の低評価につながっている(写真はイメージです) patchii-shutterstock

<最高ランク「達成済み」は2項目のみ。前回から評価を落とした項目、「深刻な課題がある」と判断された5項目とは? 22年以降、順位だけでなくスコアも後退していることの意味についても読み解く>

2030年までの15年間に国際社会が行うべきアクションの指標「SDGs(持続可能な開発目標)」で、各国の進捗状況を示す「SDGs達成度ランキング」の2023年版が21日に発表されました。日本は達成スコア79.41で166カ国中21位と、昨年の19位(79.58)よりも順位もスコアも後退しました。

今年のランキングトップはフィンランド(スコア86.76、昨年も1位)で、スウェーデン(同85.98、昨年は3位)、デンマーク(同85.68、昨年は2位)と続きます。ベスト3は、ジェンダー平等や福祉の充実に定評がある北欧諸国で占められました。

日本は17年には11位でしたが、18年と19年は15位で、その後も17位(20年)、18位(21年)、19位(22年)と徐々にランクを落としており、今年はついにトップ20から外れました。特に目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標12「つくる責任、つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」の5項目では、大きな課題が残っていると判断されました。

そもそも、SDGs達成度ランキングとはどんな指標なのでしょうか。日本のSDGsへの取り組みは、どこに問題があるのでしょうか。読み解いていきましょう。

「国際社会全体でSDGs達成に向けた進捗が3年連続で後退」

SDGs達成度ランキングは、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)とベルステルマン財団(Bertelsmann Stiftung)によって16年より毎年作成されている国際レポート「Sustainable Development Report(持続可能な開発レポート)」内に記載されており、各国のSDGsへの取り組みに関する評価の中で最も知られているものの一つです。

レポート作成者のSDSNは12年8月に国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長の後援で設立された「專門知」の世界規模のネットワークで、研究機関・企業・市民団体などが連携してSDGsやパリ協定の実施状況の調査や解決策の提案などを行っています。ベルステマン財団はドイツ最大のマスメディア複合企業(メディア・コングロマリット)で、ヨーロッパ最大の放送局グループであるRTLや、世界最大の出版社であるペンギン・ランダムハウスを傘下に置いています。

23年版のレポートでは、各国の状況を伝えるとともに「国際社会全体でSDGs達成に向けた進捗が3年連続で後退している」と警鐘を鳴らしています。後退の原因は、飢餓や健康、気候変動、生物多様性、プラスチック汚染、軍事など、複数の危機的状況が同時に生じたことと分析しており、「このままでは2030年までに、SDGsのどの目標も達成できない」と論じています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 被害状
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story