コラム

大成長の甘味料市場 日本における「甘味」の歴史とリスク

2023年03月07日(火)13時30分

日本人にとって甘味料と言えば、ブドウ科植物の蔓である甘葛、穀物から作る水飴、蜂蜜という時代は室町時代まで続きます。砂糖は奈良時代に鑑真が伝えたとされますが、大々的に輸入されるのは、戦国時代の南蛮貿易からです。江戸時代には琉球王国で黒砂糖、讃岐国で和三盆などの国産砂糖が生産されるようになり、庶民の口にも届くようになります。

鎖国が解かれた明治時代には輸入砂糖が大量に流入し、国内の製糖業も整備されます。けれど第2次世界大戦中、終戦直後は深刻な砂糖不足となり、1952年までは配給制が採られました。

甘味の需要に生産が追いつかなかったため、砂糖代替品として使われたのが、ズルチンやチクロなどの人工甘味料です。ズルチンは砂糖(スクロース)の250倍、チクロは30~50倍の甘さを持ち、少量で甘味を付けることができました。けれど、ズルチンは中毒による死亡例の発生などで69年1月に、チクロは発がん性を疑われて同年11月に国内使用禁止となりました。

「砂糖は健康に悪い」の根拠と真偽

現在、砂糖の代わりに使われる甘味料には、天然物から精製されるもの(例:ステビア、ラカンカ)、糖アルコール(例:キシリトール、ソルビトール)、合成甘味料(例:アスパルテーム、スクラロース)などがあります。終戦直後は砂糖の代替製品という位置付けでしたが、日本が豊かになるにつれ、カロリーオフや虫歯になりにくさ、腸内細菌叢への影響などの性質も注目されるようになり、多様な目的で使われるようになりました。

国民1人当たりの砂糖の消費量は、74年の30.4キロをピークに年々減っており、20年は15.6キロと半減しています。砂糖には、「消化吸収が早く、速やかにエネルギー源となる」「抗うつやリラックス効果のある脳内物質セロトニンの前駆物質(トリプトファン)の脳内への輸送を促進する」などの優れた面がありますが、近年は、「太る」「糖尿病になる」「キレやすい子供になる」などマイナスイメージが多く取り沙汰されています。

もっとも、これらは過剰摂取やダラダラと食べ続けることが原因であることが大半です。「砂糖は健康に悪い」の根拠とされる研究としては、米タフツ大の研究チームが15年に米心臓協会(AHA)の学術誌「Circulation」に発表した「糖分を過剰に含む高カロリー飲料が原因で死亡した人は、世界で推計18万4450人(2010年)。高カロリー飲料の飲み過ぎは、肥満、2型糖尿病、心血管疾患などの発症リスクを高めている」が有名ですが、あくまで対象は過剰摂取の場合です。

人工甘味料のリスクは、フェニルケトン尿症の人はアスパルテーム(砂糖の100~200倍の甘味)がうまく代謝できないことが知られています。14年には英科学総合誌「Nature」に、イスラエルのワイツマン科学研究所による「人工甘味料の摂取は、耐糖能異常を引き起こして糖尿病のリスクを上昇させる可能性がある」という研究成果が掲載されました。研究で使われた人工甘味料は、最も一般的に使われているサッカリン、スクラロース、アスパルテームでした。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ノルウェー中銀、金利4.0%に据え置き 今後の利上

ワールド

ロシア議員団が訪米、ウクライナ巡る関係悪化後初

ビジネス

中国、大口投資家の銀行株保有規制の緩和検討=関係筋

ビジネス

三菱ケミ、紙おむつ向け原料値上げ 中東情勢長引き日
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story