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体の左右非対称を決めるのは、化学物質ではなく「力」と判明
一部の内部構造が左右非対称なのは「臓器を効率よく収めるため」という説も(写真はイメージです) magicmine-iStock
<2つの新技術「超解像顕微鏡」「光ピンセット」を駆使した理研グループの研究によって、哺乳類の発生初期に体の左右の違いを決めるシグナルが「機械的な力」に制御されていることが分かった>
多くの生物は、表向きは左右対称に見えても、心臓は左、肝臓は右に位置するなど内部構造は左右非対称になっています。
生命は、1つの細胞である受精卵から始まり、細胞分裂で上下、前後、左右方向に成長して、組織や器官(臓器)が作られます。頭と尾の方向、背と腹の方向の区別に比べて、生物がどのように体の左右を区別して特定の臓器を形成するかは、これまではよく分かっていませんでした。
理化学研究所(理研)の濱田博司チームリーダー、加藤孝信研究員らの研究グループは、哺乳類の発生初期に体の左右の違いを決定するシグナルが、「機械的な力」によって制御されていることを明らかにしました。解明には、近年ノーベル賞を受賞した2つの新技術「超解像顕微鏡」「光ピンセット」を駆使しました。研究成果は、2023年1月5日付の米科学総合誌『Science』に掲載されました。
活性化のメカニズムをめぐる2説の論争に決着
「体の左右の違い(左右非対称性)」は、近年、研究が進んだ分野です。
哺乳類の受精卵は、最初は左右対称に分裂していきます。左右非対称性は、ヒトでは受精後3週目、マウスでは受精後7.5日目に初めて現れます。内臓が正常に形成、機能するために必須であると考えられており、左右非対称性に異常が生じると、出生後に先天性心疾患などの重篤な病気が引き起こされる場合があります。
1990年代中頃にlefty、nodal などの左右非対称に発現する遺伝子が発見されると、この分野は遺伝子レベルでの研究が急速に進みました。これまでに、非対称な発現に関係するシグナル因子の働きなど、多くのメカニズムが解明されてきました。
哺乳類の発生で最初に左右対称性が破られる部分は、胚に一過的に形成される「ノード」と呼ばれるくぼみです。ノードの中には左向きの流れ(ノード流)があり、ノードの左側でのみ「左側を決めるシグナル」が活性化されることが知られています。けれど、「活性化のスイッチはどのように入るのか」「なぜ左側だけが活性化されるのか」などの根源的なメカニズムは不明でした。
鍵を握るのは、ノードをお椀に見立てた時に「お椀の縁」にあたる部分に存在する不動繊毛です。以前から、不動繊毛は左側を決めるシグナルの活性化に関わっていると考えられていましたが、長さがわずか5マイクロメートル程度のため、実際に動きを観察したり、直接触れたりすることは困難でした。そのため活性化のメカニズムには、①ノード流で運ばれてくる化学物質を感知する「化学受容説」と、②流れを物理的に感知する「機械刺激受容説」の2説の論争がありました。
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