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体の左右非対称を決めるのは、化学物質ではなく「力」と判明
今回、研究グループは、マウス胚を使って、数十ナノメートルの解像度を実現した「STED顕微鏡(誘導放出抑制顕微鏡、14年ノーベル化学賞)」で解析を行いました。その結果、ノード流によって、ノードの左側にある不動繊毛は腹側に曲げられ、右側の不動繊毛は背側に曲げられるという、左右非対称な変形が観察されました。
そこで、研究者たちは、不動繊毛は化学物質ではなく、機械的に曲げられることによって活性化するのではないかと仮説を立てました。実証のために、光を使って溶液内の微粒子を動かす「光ピンセット」(18年ノーベル物理学賞)の技術を用いて、人工的に不動繊毛を曲げながら左側を決めるシグナルの活性化を測定しました。すると、腹側に曲がったときにのみ、左側を決めるシグナルが活性化されることを発見しました。
この事実は、ノードの不動繊毛の「機械刺激受容説」を証明しただけでなく、不動繊毛が「曲げられる向きを感知するアンテナ」として機能する全く新しいタイプの受容組織であることも示しました。
先天性疾患の克服にも貢献できる可能性
さらに「なぜ不動繊毛は腹側への曲げのみにシグナルを活性化させるのか」を調べるために、超解像顕微鏡(3D STED 顕微鏡)を使って解析すると、①腹側に曲げられる不動繊毛では背側で膜張力が増加する、②不動繊毛表面のセンサータンパク質(Pkd2チャネル)は背側により多く分布していることを発見しました。
Pkd2 チャネルは膜張力の増加で活性化するセンサーです。そのため、不動繊毛が腹側に曲げられ、背側の膜張力が増加する左側の不動繊毛だけが、ノード流に応答すると考えられました。つまり、不動繊毛は腹側への曲げのみに反応する「曲げられる向きを感知できるアンテナ」であるため、ノードの左側のみで左側を決定するシグナルが活性化することが「ノードで左右対称性が破られるメカニズム」と分かりました。
今後は、左右非対称性の決定後、その情報を使っていかに正確な位置に正確な形状の臓器を形成していくのかの過程が解明されれば、倫理的な問題の議論は必要ですが、胚治療によって左右非対称性の異常による先天性疾患の克服に貢献できる可能性があります。
内部構造の左右非対称は「省スペース化」のため?
理研グループの研究成果が発表されたScienceには、別のグループによる左右非対称性に関する論文も掲載されています。
米マサチューセッツ州総合病院、ハーバード大などの研究グループは、ゼブラフィッシュ胚のノードの動繊毛の動きを止めたり、不動繊毛を光ピンセットで人工的に動かしたりすることで、ノードの不動繊毛の「機械刺激受容説」を証明しました。
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