コラム

ヒトへの依存度が大きい犬種は? 嗅覚で視覚を補っている? 2022年に話題となったイヌにまつわる研究

2022年12月20日(火)11時20分

とりわけ、嗅球と後頭葉を繋ぐ回路はヒトには見られないものです。イヌには嗅覚と視覚を統合するシステムが特別にあることが初めて示されました。研究チームは「嗅球と後頭葉に伝達回路があるために、イヌは視力を失っても嗅覚で補えて、目が見える時のように動けるのかもしれない」と考察しています。

これまでも、イヌが暗闇の中でにおいを嗅いで「ボール、ロープ、コング」から正しいおもちゃを見分けられることを示した研究や、視覚障害を持っているイヌでもヒトとのコミュニケーション能力に差異はないことを示唆する論文などが発表されてきました。

前出のペットフード協会による調査によると、日本で飼われているイヌの平均寿命は2021年には14.65歳になっています。高齢になると目の病気を患うリスクも高まりますが、秀でた嗅覚のおかげでヒトが想像するよりも普通の生活や飼い主とのコミュニケーションを保てると知って、安堵するオーナーの方々も多いのではないでしょうか。

トキソプラズマに寄生されたオオカミはリーダーになりやすい

ネコからヒトへと感染することがあるトキソプラズマは、胎児に水頭症、視力障害、脳内石灰化、精神運動機能障害を起こす可能性がある先天性トキソプラズマ症の原因になるため、妊婦がとくに気をつけるべき寄生虫として知られています。

米モンタナ大野生生物学プログラムのコナー・マイヤー氏らの研究チームは、「トキソプラズマに寄生されたオオカミは群れのリーダーになる確率が高く、群れから離れた『一匹オオカミ』になる可能性も高い」ことを示しました。研究成果は、「コミュニケーションズ・バイオロジー」に掲載されました。

研究チームは、世界遺産のイエローストーン国立公園にいるハイイロオオカミ229頭(オス116頭、メス112頭、両性具有1頭)の血液を採取して分析しました。同国立公園にはネコ科大型獣のピューマも生息しているため、排泄物などに触れてオオカミがトキソプラズマに感染する可能性があります。

オオカミのトキソプラズマへの感染率は27.1%で、オスとメスに有意差はありませんでした。ただし、感染したオオカミの行動を追跡したところ、群れのリーダーになる確率は感染していない個体と比べて46倍高いことが分かりました。これは、感染したオオカミが「一匹オオカミ」になる確率が、そうでないものと比べて11倍高いことも影響しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story