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オスだけ殺すタンパク質「Oscar(オス狩る)」のメカニズムが解明される
90年には、ある種の寄生バチにおいて、ボルバキアによる単為生殖が行われることが観察されました。単為生殖でメスがオスを必要とせずに次世代を残す場合、生まれてくるのは必ずメスです。ボルバキアは母系伝播をするため、オスがいなくても自身の世代を繋げることに問題はありません。
その後97年に、ダンゴムシでボルバキアによる性転換が発見されます。ボルバキアに感染したダンゴムシのオスは、遺伝子的(遺伝子型)にはオスのままで、見た目(表現型)は完全なメスになります。ボルバキアの繁殖に貢献できないオスをメス化することによって、繁殖を効率的にすると考えられています。
性染色体の調節システムに着目
「オス殺し」は2000年代になって研究が進みました。ボルバキアにとって不要なオスを殺すことで、メスに十分な餌がいきわたり、自身の増殖に有利になるからとられた戦略と考えられます。
これまでに、チョウ目の昆虫では、リュウキュウムラサキ、チャハマキ、アワノメイガなどで報告されています。たとえば、アワノメイガはトウモロコシの害虫として知られていますが、ボルバキアに感染した母親が生んだ卵では、生まれるのはメスばかりという現象が起こります。発生の段階でオスのみが死んでしまうからです。
東大チームは、以前からチョウやガに対するボルバキアの「オス殺し」の実行因子とメカニズムの解明に取り組んでいました。これまでは、オス殺しの有力な候補因子は見つけられていたものの、作用機序などは不明でした。
今回、同チームは性染色体の調節システムに着目して、オス殺しタンパク質「Oscar」を発見し、メカニズムを解明しました。
ヒトの性染色体はオスがXY、メスがXXですが、チョウやガではオスがZZ、メスがZWとなっています。同じ染色体が2本ある方の性(ヒトならメス、チョウならオス)では、2本とも機能すると染色体から作られる産物が過剰になり、死に至ることもあるため、1本の染色体を不活性化するシステムがあります。
チョウやガのオスでは、2本のZ染色体上にある遺伝子の発現をMasculinizer(Masc)と呼ばれる遺伝子が調節しています。ボルバキアに感染するとMascがうまく働かなくなり、オスは死に至ります。そこで研究チームは、ボルバキアが作るタンパク質のうちMascと結合できてMascを抑制する効果があるものを探したところ、Oscarが見つかりました。Oscarは、培養細胞では様々なチョウ目昆虫由来のMascの機能を抑制したことから、チョウ目の昆虫において普遍的にオス殺しを誘導できる可能性があると言います。
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