コラム

生命の「地球外起源説」を強力サポート 隕石の再分析でDNA、RNAの核酸塩基全5種の検出に成功

2022年05月10日(火)11時30分

「生命の種は宇宙線で死滅するのではないか」と否定的に見られた時期もありましたが、「大気圏突入の過熱や衝撃に微生物は耐えられる」との研究論文も数多く発表されるようになりました。とりわけ、2008年から15年にかけて、国際宇宙ステーションの外で3回の宇宙生物実験(EXPOSE)が実施され、隕石に似せた物質の中に多様な生体分子や微生物を封じ込め、1年半の間、宇宙空間の厳しい環境にさらされました。いくつかの生物が生き残ったことから、地球外起源説の実験によるサポート例となりました。

5種類の核酸塩基を1つの隕石から検出

今回の北大グループの研究成果を詳しく見てみましょう。

分析した隕石は、いずれも「炭素質隕石」です。

隕石は、宇宙空間から地球に飛来した固形物質のことです。「始原的な隕石」と「分化した隕石」の2つに大別することができます。

「始原的な隕石」は、46億年前に太陽系ができた頃の物質をそのまま集めた「最古の太陽系物質」と考えられます。対して「分化した隕石」は、一度全体が融けて変成作用を受けたものです。

始原的な隕石のうち、金属をほとんど含まず、炭素や水といった揮発性の成分を多く含むものを炭素質隕石(炭素質コンドライト)と呼びます。

今回は「マーチソン隕石」「タギッシュレイク隕石(2000年、カナダで発見)」「マレー隕石(1950年、アメリカで発見)」の3種の炭素質隕石を使用し、超高感度の計測装置で再分析しました。この計測装置では、サンプル中に含まれる1ピコグラム(1兆分の1グラム)オーダーの塩基が検出・同定できるといいます。

すると、生命の遺伝情報を継承するDNAやRNAに使われているアデニン、チミン(DNAのみ)、グアニン、シトシン、ウラシル(RNAのみ)の5種類の核酸塩基が、1つの隕石からすべて検出できました。これまでは、炭素質隕石から見つかったことがある核酸塩基は、グアニン、アデニン、ウラシルの3種類だけでした。

とりわけ、ピリミジン核酸塩基(シトシン、チミンなど)が最大ppb(10億分の1)レベルの濃度で初めて検出されたことは大きな成果です。この存在濃度は、太陽系が形成される前に星間分子雲に存在していたと予測されている濃度に近いと言います。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story