コラム

生命の「地球外起源説」を強力サポート 隕石の再分析でDNA、RNAの核酸塩基全5種の検出に成功

2022年05月10日(火)11時30分
隕石

最新の分析技術で再分析したのは、3種の炭素質隕石(写真はイメージです) dottedhippo-iStock

<北大低温科学研究所・大場康弘准教授らの研究グループによる超高感度の計測装置を用いた分析は、生命の地球外起源説を補強する成果を導き出した>

地球の生命はどこから来たのでしょうか。地球内が起源という仮説と宇宙から飛来したという仮説があります。

北海道大低温科学研究所の大場康弘准教授らの研究グループは4月27日、1969年にオーストラリアで見つかった「マーチソン隕石」など3種の隕石を最新の分析技術で改めて調べた結果、生物の遺伝情報を伝える「核酸」を構成する塩基、全5種類の同時検出に成功したと発表しました。この研究は英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されました。

今回の研究は、地球の生命の起源は、約40億年前に宇宙から飛来したという地球外起源説を補強するものと考えられます。

原始地球は「マグマオーシャン」?

生命を誕生させるには、大量の有機分子、とくにアミノ酸が必要です。

1936年に『地球上における生命の起源』(Vozniknovenie zhizni na zemle)を記したロシアの生化学者アレクサンドル・オパーリンは、初期地球の大気中にあった有機分子が海洋に蓄えられて濃厚な「生命のスープ」を作り、さらに有機分子は重合して大きな分子になって、やがて細胞内に隔離されたものが最初の生命になったと考えました。

1954年に行われた「ミラーの実験」は、オパーリンの仮説に則った実験です。初期地球大気中には水、水素の他にメタン(CH4)、アンモニア(NH3)が豊富に含まれていて炭素源や窒素源になっていたと仮定して、生命誕生のきっかけと考えられていた落雷を模した雷放電実験を行いました。この実験を1週間続けると、容器の中にはアミノ酸が合成されました。

けれど、1980年代頃から「CH4やNH3に富んだ大気」は初期地球大気としては考えにくいと分かりました。さらに、誕生したばかりの原始地球は、熱いマグマで覆われていた「マグマオーシャン」の状態だったという説が有力になりました。

その結果、「地球内で生命が誕生したならば、初期地球の海底で鉄と火山ガスや熱水が反応して有機分子が生成された」と考える「海底熱水説」が提唱されました。この場合の炭素源と窒素源は二酸化炭素(CO2)と気体の窒素(N2)です。

地球外起源説の歴史

対して、生命の起源を地球外に求める仮説は、生命の種が天上の神の世界から播かれたと考える有史以来の信仰にも現れる説です。「パンスペルミア説(宇宙汎種説)」と呼ばれるこのアイディアは、アリストテレスの生命の「自然発生説」で下火になります。その後、19世紀にパスツールによって自然発生説が完全に否定されて以来、20世紀になって「生命の種は隕石や彗星に運ばれて地球に届けられた」という現実的な仮説として再びクローズアップされます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドイツ銀、資金洗浄疑いで家宅捜索 外国企業との取引

ワールド

米国務長官「イラン政府これまでになく弱体化」、デモ

ワールド

米財務長官「欧州はウクライナより貿易優先」、インド

ワールド

シリア暫定大統領、プーチン氏と会談 ロシア軍の駐留
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 5
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 8
    またTACOった...トランプのグリーンランド武力併合案…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    筋トレ最強の全身運動「アニマルドリル」とは?...「…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story