コラム

ボイスの時代がそこまできた。モバイルファーストを思い出せ

2016年11月25日(金)16時00分

 米国を席巻している音声デバイスAmazon Eco。そのEchoを開発したAmazonの研究開発チームの一員であるMike George氏が、このほど米国で開催されたイベントのパネルセッションで、「あえて画面を持たせなかったことがAmazon Echoの成功の大きな要因」と答えている。

【参考記事】次のキーテクノロジーは音声、次の覇者はAmazon

 Echoに簡単なディスプレイを搭載することは簡単。でもディスプレイを搭載すれば、そのことに甘えてしまう。ディスプレイに甘えることができないようにしたことで、音声応答技術の完成度が増したということなのだろう。

 これこそがボイスファーストの考え方だ。

 モバイルファーストのサービスが「モバイルとPCのどちらでも使えます」という中途半端なサービスから市場シェアを奪ったように、今後ボイスファーストのサービスが「文字と音声のどちらでも使えます」という中途半端なサービスを駆逐していくことだろう。

 もちろんすべてのサービスがボイスファーストに向いているわけではない。

 すべてのアプリやサービスがモバイルファーストに置き換えられたのではないのと同じことだ。PCの比較的大きな画面を使ったほうがいい作業やサービスは、やはり今でもPCのサービスとして生き残っている。特に仕事に関連する作業やサービスは、画面が大きく、入力が簡単なキーボードを搭載したPCを使うほうが使い勝手がいいのは当たり前の話だ。

人前で音声入力は恥ずかしい?

「人前で音声入力するのは恥ずかしい」という意見がある。それはその通りだ。しかし家や車の中など、音声入力しても恥ずかしくないシチュエーションは多数存在するはず。

 また音声の認識率がほぼ完璧になれば、文字入力が断然早くなる。プロのキーパンチャーよりも、フリック入力名人の女子高生よりも、だれもが早く入力できるようになる。多くの人が音声入力を使うようになるのは間違いないだろう。

 どの作業やサービスが、ボイスファーストに向いているのだろうか。ボイスファーストに向いているサービスの準備を始める、それが今、すべきことなのだと思う。

 検索の主流が、画像と音声になる時代。その時代に向けてAmazonが、ボイスファーストのスマホOSや新しいモバイルデバイスを開発していたとしても、驚きはない。そのデバイスは、スマートグラスなどのウエアラブルデバイスのハブのような存在になるかもしれない。そうなれば今のスマホそのものが、ボイス時代にはそぐわない陳腐化したデバイスになり下がることだろう。

 成功体験に溺れ、立ち止まるものは、駆逐される。20世紀には何十年かに一度の頻度で起こっていたような業界勢力図の変化が、21世紀には数年単位で繰り広げられるようになる。すごい時代になったものだ。

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プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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