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ヴィズマーラ恵子|イタリア

メローニ首相が代理出産を激しく非難、イタリアでは普遍的犯罪

ジョルジャ・メローニ首相 公式YouTubeチャンネル@giorgia_meloni『ローマ、2024年4月12日 | 「若きヨーロッパのために - 人口動態、環境、未来」というイベントでの私のスピーチ 』より

イタリアのジョルジア・メローニ首相は4月12日金曜日、ローマで行われた『若きヨーロッパのために』と題したイタリアの出生率と人口減少問題について考える会議に出席した。

人口動態の変化、環境、将来についてを話す中で、「代理出産」を激しく非難した。
首相は、代理出産は「非人道的」であると定義し、いわゆる「子宮貸し、レンタル子宮」についてを強調し、「それは間もなく普遍的な犯罪になるだろう」と発表した。
代理出産を普遍的犯罪とする法案を支持する用意があると付け加え、同法案が「できるだけ早く承認されることを期待している」と演説をした。

メローニ首相が「子宮を貸し出す行為」と定義する代理出産とは、国境を越えた愛の行為として偽装することで養われている闇市場のことである。

これは、「意図された親」とも呼ばれ、これから生まれる子供の親となる人々に代わって女性が妊娠を行う生殖補助医療である。
子どもを妊娠する卵子は、ドナーから提供される。
つまり、妊婦は胎児と血のつながりはない。
または、卵子は将来の母親から、精子は将来の父親からのものである可能性がある。
同性カップルの場合、あるいはドナーの場合も同様。

通常、夫婦が代理出産で子どもを産む場合、将来の両親のうち少なくとも一方が、卵子か精子で生まれた子供と遺伝的つながりを持っている。

他人の受精卵を子宮で育てて出産する「代理出産」はイタリアでは普遍的犯罪とになり最長2年の懲役が科せられる。

イタリアでは代理出産はすでに犯罪と定義されている。
イタリア国民による海外での代理出産の罪の起訴に関する「2004年2月19日の法律第40号の第12条の修正案」をメローニ政権は提出している。子宮を借りることを普遍的な犯罪とする、つまり海外で犯した場合でもイタリアで処罰できるとするフラテッリ・ディタリア法案を基本文書として採択した。
国外で行った代理出産も違法。

違反者には3か月から2年の禁固刑と60万ユーロから100万ユーロ(約1億6,400万円)の罰金が科される。

現在イタリアでは代理出産は禁止されており、代理出産のために海外に出るカップルは年間3千〜4千件。
最も頻繁にその目的地として選ばれていたのがウクライナだ。

代理出産は、実際にはヨーロッパや世界中のいくつかの国では合法である。
合法の国は、ウクライナ、ギリシャ、ジョージア、アメリカ、カナダ。

コリエレ・デッラ・セーラ 紙によると、海外で赤の他人の女性を妊娠させて生まれたイタリア人の子供に関する公式的な数字はないが、年間250人から350人がいると推定されている。


| イタリア司法の判決で国が敗訴

海外で代理出産によって生まれた子どもをイタリアに連れ帰り、子どもの出生届をする際、同性カップルの間の子ども(未成年者)に発行される電子身分証明書の登録時に『母親の名前』『父親の名前』と記載されている文書は事実上違法であると訴えた同性カップル。

公務員が犯したイデオロギー的虚偽の犯罪であり、また、両親の性別に対応するその他の文言を適用したことを非難した裁判で、2024年2月15日に、ローマ控訴裁判所は、『当時内務大臣だったサルヴィーニ氏が主導して作った2019年内務省令』を違法と判決した。

裁判所の判決文によれば、『親1/親2』ならば良いという。

また、2024年3月5日にも、イタリア・パドヴァ裁判所判決で、同性カップルの母親が、2人の子どもの出生証明書について有効を求めていた裁判では、母親2人の認知の取り消しを求めた検察庁の上訴が棄却された。
よって、同性親家庭の非生物学的な母親は形式的にも母親であり続ける。どちらか一方の母親を削除することはできないという判決が下され、国が敗訴した形となった。


メローニ首相と連立政権の党で現副首相・インフラ運輸大臣のサルビーニ氏は、「控訴院の判決は間違っている。誰もが恋愛において、自分のやりたいことをいつでも自由にすれば良いが、『お母さん』と『お父さん』と言う言葉が法律によって削除されることを認定するなど、馬鹿げている。避難に値する行為で、これは進歩ではない。」と、SNS上で怒りの反論を述べている。

また、メローニ政権で家族・出生・機会均等大臣を務めるエウジェニア・ロッチェッラ氏は、「イタリアでは子供たちはみな同じであり、同じ権利を持っている。これは最近欧州人権裁判所によって認められており、破毀院も共同セクションである」と言い、メローニ政権は我々の制度を一ミリも変えていないと強調した。同大臣は、「異性愛者と同性愛者の両方のカップルに適用される簡単で利用しやすい手続きもすでにある」と、述べている。

昨年3月にも、ミラノで生まれた同性カップルの息子と娘の登記所への登録を停止するよう要請が、イタリア内務省からミラノ市長へ通達されるという騒動が話題となった。

イタリアでの同性カップルの子どもの家族登記・役所への届出
父&父(海外産まれの子)⭕️認可
母&母(海外産まれの子)⭕️認可
母&母(イタリアで出産した子)❌認可しない
というものが、現在のイタリアの現状である。

メローニ首相:

「子供たちをスーパーマーケットの棚に並ぶ商品のようにみなすことが愛の行為だということは、私には納得できない。子どもたちを産みたいという正当な欲求を諦めることも愛の行為ではない。子どもには可能な限りどんな手段を使ってでも保障できる権利があるのです。」

と述べた。

一方、野党は、
「家族が第一であり、出生率が政府の優先事項であるとも述べているが、これは、子供用品(特におむつやミルク)に対する付加価値税の引き上げなど、前年と比較して行政が実施した一部の措置と客観的に見て矛盾する言葉である」と、すぐに反応を示して批判をした。

イタリアの標準税率は22%で、主に生活必需品を対象として、10%、5%、4%の軽減税率がある。
メローニ政権は、家族向け対策として、おむつやミルクなどの子供向け製品の付加価値税VAT(イタリアではIVA)を2023年に22%から5%に引き下げる減税措置をしたが、現在は5%だったものを10%に引き上げ、増税をした。

野党民主党の書記長シュライン氏は独身女性であり、同性のパートナーがいるレズビアンであることを公表しているが、視野が狭いのではいかと感じる。

子どもの育児は、母乳やミルクや離乳食が終わり、おむつが外れる期間までではない。ピンポイントの時期だけに必要な雑貨購入にかかる税率を5%にしたとて、直接的に出生率の向上に繋がるわけではないとも思える。子どもは成長をしていくにつれ、もっとお金は掛かるものであって、一児の母親であるメローニ首相の5%税率の撤廃は妥当である。
メローニ首相は、もっと違う形で子育て世代への支援を考え予算案に盛り込んだ。


| イタリアの子育て世代支援策

新しい予算法においては、行政には次の権限もあるということも強調しておく必要がある。

2024年に親の育児休暇を増やすために、約1億4,000万ユーロ(約228億4000万円)を割り当てた。

・保育所のボーナスを増額する
経済状態指数ISEE年間所得が4万ユーロ未満(約652万円未満)の家庭に対して3,000ユーロ(約49万円)から3,600ユーロ(約58万7000円)に増額する。
資金は2025年には2億4,000万(約391億5400万円)から2億5,400万(約407億8500万円)、2026年には最大3億ユーロ(約489億円)に増加する。

・母親ボーナスを導入する
子供(2人以上)を持つ労働者に対する拠出金軽減。


| イタリアの深刻な人口減少とリスク

すべての措置は、センセーショナルな出生率の低下を食い止めようと計画されている。

イタリア国立統計研究所(ISTAT) のデータによると、2023年に生まれた子どもの数はわずか37万9千人。
1000人当たり6.4人の子どもが出生し、過去最高のマイナス記録となった。
2022年には6.7人で、昨年は出生数がマイナス1万4千人、出生率は3.6%であった。

メローニ首相は、スピーチの中で、出生率低下という長年の問題について再び語った。
「何年にもわたって作られてきた物語を覆さない限り、具体的な介入は決して十分ではない。

子どもをこの世に産むということは、女性にとって自由、夢、キャリア、場合によっては美貌を犠牲にすることになるため、それは最終的には不都合な選択になるといったこの種のメッセージは所謂、"反面教師"であると捉えるべきである。キャリアを築くために子どもを産むことを諦めることは、"真の自由ではない"」と、メローニ首相は主張した。

近年の傾向を逆転させることができなければ、人口減少がイタリアとヨーロッパを崖っぷちに引きずり込む危険にさらされるだろう。


| イタリアの出生率の緊急事態

ローマの会議にはエウジーニア・ロッチェッラ家族・出生・機会均等大臣も出席し、イタリアの出生率の深刻な傾向について語った。

家族・出生・機会均等大臣は、「この問題への無関心が何年も続いたため、影響を残さず、この問題を止めて傾向を逆転させるには長い時間がかかるだろう」と説明している。

同大臣によれば、出生率政策への投資に対する大きなインセンティブは欧州連合から得られる可能性があるという。

そしてこれが、イタリア政府が人口動態の問題を次期欧州委員会と新しい欧州議会の優先事項に据える理由であり、「グリーン移行とデジタル移行に関してすでに行われたように、人口動態の移行、すなわち厳しい冬からの移行への投資とヨーロッパにおける大胆さと未来感を通して、少なくとも新生の春が訪れるだろう」と、演説で述べている。

出生率を上げたい、子どもの数を増やし人口減少に歯止めをかけたいが、代理出産によって子どもを増やすことはしてはいけない。

| 代理出産を国外で行った場合でも違法とする修正案が通らないワケ

メローニ首相は、「代理出産を犯罪とするこの修正案は、"もうまもなく"普遍的となるでしょう」
と発言している。"長い道のりでもある"とも言っているのはなぜか。

ルーカ・コショーニ協会全国書記で弁護士のフィロメーナ・ガッロ氏によると、法律 40/04 は、<<医学的に補助された生殖技術の適用後に生まれた者 (他人の妊娠を含む) は、同じ技術に頼る意思を表明した夫婦の嫡出子または認知された子の地位を有する>> と規定している。

本文は、代理子宮の犯罪を処罰することを目的としているだけでなく、代理子宮の犯罪も処罰することを目的としている。イタリア国民でも誰でも、外国人でも。世界中で代理出産を処罰するという前提があるが、これには法的根拠がなく、国際法を考慮しておらず、法的に適用できず、不合理であると言う。

貸し出された子宮を普遍的な犯罪として追及することは、多くの観点から非難されるべき刑事政策の選択である。

外国で行われた行為が犯罪とみなされ、イタリアで処罰されるためには、その行為が行われた外国でも必然的に犯罪でなければならないので、例えば代理出産が合法であるウクライナで行われた場合、イタリアで処罰されるのは国際法に沿った場合に矛盾が生じる。

国際法的には、生まれた子供と両親の間の絆を確認する原則が優先され、海外で合法的に行動した家族からその絆が奪われてはならない。

La Repubblica

今年1月には、ローマ教皇フランシスコは、代理出産、レンタル子宮、ジェンダー理論について言及した。
「平和への道には、母親の胎内にいる胎児から始まる、すべての人間の生命は、その存在のあらゆる瞬間において尊重され保護されなければなりません。一方で、特に西洋では、これは抑制できず、文化が根強く普及していることを遺憾に思います。商業化の対象となってはならない。」

いわゆる代理出産は女性と子供の尊厳を著しく傷つける行為である。
世界人権宣言に含まれるシンプルだが明確な表現によれば、平和への道には人権の尊重が必要だと述べている。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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