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ヴィズマーラ恵子|イタリア

欧州グリーン住宅指令に反対のイタリア、ミラノの住宅事情

画像Shutterstock-NicoElNino

| 環境に優しい住宅指令とは何か?

欧州議会は、加盟国の建物改修の目標を定める建物のエネルギー性能に関する『欧州グリーン住宅指令』の改革を、賛成343票、反対216票、棄権78票で承認した。

グリーン住宅指令は、新築物件と既存物件の両方に厳しい制約を課すことにより、建物のエネルギー効率の向上を推進するというものである。

欧州のグリーン住宅指令の文書は、建物のエネルギー性能に関するより厳格な制約基準を確立している。
目標は、 2030年までに排出量とエネルギー消費を削減することで、長期的見て2050年までに気候中立性を達成するためのものだ。

承認された交渉見解では、すべての新しい建物は2028年からゼロエミッションでなければならない。そして、技術的および経済的に可能なすべての新しい建物には、2028年までに太陽光発電技術を設置する必要も規定されている。

新しい建物が公的機関によって所有されている場合、または公共団体が占有して管理している場合、その期限は2028年までに短縮される。

一方、民間の新築建物は、2030年からゼロエミッションでなければならない。
大規模な改修が行われている住宅用建物の場合、その期限は2032年までと設定されている。
既存の住宅用建物に関しては、消費量の基準値を2020年時点とし、加盟国は2030年までに平均エネルギー消費量を16%削減することを約束しなければならず、2035年までに削減量を20~22%に増加させることが義務付けらるというものである。

EU加盟国は、エネルギー性能が最悪の非住宅用建物の16%を改修しなければならないという、とてつもない欧州の住宅指令である。

各州は、技術的に可能であれば、公共および非住宅の建物に太陽光発電システムを徐々に設置することに同意し、2030年までにすべての新築住宅建物に同様の義務を課すという。

しかし、イタリア政府は反対である。

EU議会では、イタリアの同胞(FdI)、同盟(Lega)、フォルツァイタリア(FI)、つまりイタリア与党多数派の政党は反対票を投じた。

「この指令はイタリアにとって満足のいくものではない。今日までと同様、我々は国益を守るために戦い続ける」

と、環境・エネルギー安全保障大臣のジルベルト・ピチェット氏は断言した。

欧州議会が改革条項に最初の賛成を表明した後、理事会および欧州委員会とのいわゆる三者交渉が始まり、新たな指令の最終版に到達することになる。
最終版が有効になった場合、この指令は各国で適用していかなければならない。


| エネルギー性能証明書(EPC) とは

欧州では、EU全域の住宅及び非住宅建築物にエネルギー性能を評価する証明書(Energy Performance Certificates)の導入が義務付けられている。

その証明書を『エネルギー性能証明書(以下EPC) 』という。

不動産を売却する場合でも、単に賃貸を検討している場合でも、EPCはすべての種類の不動産の販売、購入、賃貸において大変重要だ。

建物が売りに出されたり賃貸されたりする場合、商業メディアのすべての広告にEPC証明書を含めて表示する必要がある。
また、建物の建設、販売、または賃貸の際に、将来のテナントまたは購入者に提示する必要があって、売買契約成立後、買主または新規テナントに引き渡される。

エネルギー性能証明書 (EPC) および冷暖房システムの検査は、建物のエネルギー性能指令 (2010/31/EU) において中心的な役割を果たし、建物のエネルギー性能の向上に役立つ重要な手段なのだ。

エネルギー性能証明書はまた、建物の所有者やテナントに対して、建物のエネルギー性能を向上させるための費用対効果の高い方法と、必要に応じて利用可能な金融手段を開示する必要がある。

欧州諸国は、暖房および空調システムの定期点検が義務付けれられており、検査計画を導入するか、エネルギー節約に同等の影響を与える措置を講じる必要がある建物のエネルギー性能指令 (2010/31/EU) なるものなるで、エネルギー性能証明書の信頼性を高める側面を持っている。
それが、建物の売買や賃貸の取引価格および賃貸料へ影響するという仕組みだ。

EPC 評価の範囲は A (最高の評価) から G (最悪の評価) まである。

A ~ G 評価で受け取られる証明書には、次の情報が含まれる。

・査定物件の住所
・物件の種類/カテゴリー
・検査日
・認定日と固有のシリアル番号
・物件の延床面積
・施設のエネルギー効率を向上させるための推奨事項

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画像Shutterstock-Francesco Scatena

| ミラノの住宅事情

Imbiliare.itが 2023年10月に更新したレポートによると、ミラノで部屋を借りる場合、地域によって大きく異なるが、月額料金は40平方メートルの1Kアパートで最安値平均は550ユーロ(約8万9,200円)で、平均月額家賃は約890ユーロ(約14万4,000円)である。
1LDKのアパート60平方メートルや小さな3部屋のアパートの場合、価格は約1,350ユーロ(約21万9,000円)、さらに、約90平方メートルの家を借りている人は平均2,020ユーロ(約32万7,800円)を費やす。
それに加え、マンション管理費・共益費がそれぞれ上乗せされ、光熱費と地下駐車場車庫と倉庫は別途費用がかかる。

古い家は家賃が安く最安値平均の月額550 ユーロ (約8万9,200円)であるが、エネルギー性能証明書(EPC) が『F』や最悪評価の『G』であると、高額な光熱費がかかる。
ガス代や電気代などの光熱費の負担が『A』や『B』に比べて重くのしかかり、高額請求が2ヶ月に一度来ることを考慮しなければならない。

家賃が少々高くでも、EPCが『A』レベルの最新マンションなら、太陽光発電を目的としたソーラーパネルが設置されているので、光熱費はほぼかからない。

家賃と光熱費の両方で理想的な物件は、治安が良く、リノベーション済みで比較的新しく、EPCが『B』レベルくらいが最適である。
ミラノ中心地で、1LDKでリノベーションされ最新家具付き、EPCレベルが『B』の場合の家賃は月額1,700ユーロ (約27万5千円)が平均価格となる。

ミラノの家賃は、イタリアで最も高額だ。

イタリアで住宅を借りるのに最も高価な都市はミラノで、22.1 ユーロ/平方メートル、次いでフィレンツェ (18.8 ユーロ/平方メートル)、ボローニャ (18ユーロ/平方メートル) です。 4位はヴェネツィア(17.6ユーロ/m2)、5位はローマ(14.5ユーロ/m2)、8位はナポリ(12.3ユーロ/m2)となっている。

ミラノの平均賃貸料の問題は、都市のあらゆる経済的、学術的、文化的機会をアクセスできなくなり排他的になる危険性がある限界とみなされているため、特に最近、議論や抗議の対象となっている。
多くの大学生が何ヶ月もの間、ミラノ工科大学の本部の前でテント張り、テント内で生活して、「ミラノの高額家賃に反対」のデモを行っていた。

| 脱炭素化の目標

EU諸国は脱炭素化を目的とした計画を提示する必要があり、実際には2040年までに冷暖房システムから化石燃料を段階的に排除することが目標だ。

EUでは、化石燃料ボイラーに対するボーナスの付与は2025年から禁止される。
ただし、再生可能エネルギーのかなりの部分を使用する暖房システムにインセンティブを与えることが可能となる。

イタリアのアンジェロ・チョッカ氏(同盟)が、グリーン住宅指令に反対し、ホイッスルとレッドカードを持って議場に到着した。
チョッカ氏は、環境に優しい住宅に関する指令の文言に異議を唱えてホイッスルを鳴らした。
議会議長は最終的に同氏の業績を「嘆かわしい、前例のない」ものとして議場から退場させられた。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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