イタリア事情斜め読み
知らなかった!イタリアの報道で知る石破首相のアジア版NATOの中身
| カオス・カルテットを攻略する解決策は日本が握っている
異なる政権や歴史、文化、人口動態、経済、軍事的重みが大きく異なるが、互いに協力し合っている中国、ロシア、イラン、北朝鮮。
それにもかかわらず、彼らが一旦互いに協力し合うと、団結力と決意、民主主義の分野ではそれらが欠けてくる。
彼らには共通のイデオロギーは存在せず、価値観においても和解しがたい違いがある。
プーチン大統領はチェチェンでのイスラム教徒の虐殺を行い、習近平は新疆の再教育キャンプで国民を抑留している。
にもかかわらず、彼らはこれらを無視し、共通の利益を優先している。
具体的には、アメリカ中心の国際秩序を破壊することに集約される。
イタリアではこの中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「カオス・カルテット」と呼んでいる。
アメリカの地政学と軍事戦略に関する雑誌、テキサス州国家安全保障のレビューにおいて、学者フィリップ・ゼリコウは「現在、ロシア、中国、イラン、北朝鮮は、より長期間にわたり、より広範な分野で協力している」と指摘している。
この協力は、1930年代の枢軸国(日独伊)が行ったものと比べても、より顕著であるとされている。
北朝鮮とイランはロシアに対し、ミサイルやドローン、砲弾を供給しており、彼らの経済の破壊と腐敗が問題視されている。
また、中国はロシアの戦争機構に必要な製造部品を提供しており、特にマイクロエレクトロニクスや機械の供給が重要である。中国の「二重」技術は民生用とされるが、実際にはロシアの軍事力を強化しているのだ。
最近の分析において、エコノミストはロシアの軍事支援を「弾丸」(武器交換)、「筋肉」(産業支援)、「頭脳」(技術知識の移転)の三つの主要な協力分野に分類している。
「筋肉」(産業支援)は、中国は世界有数の製造業大国であるため、ロシアの戦争機構はすべて中国の工業供給に基づいており、特に北朝鮮からはマイクロエレクトロニクス部品の90%、機械の70%が供給されている。中国がアメリカに提示する「二重」技術は、表向きは民生用途を目的としているが、実際にはプーチンの戦争機構を刺激している。
「頭脳」(技術知識の移転)は、継続的な情報交換が含まれている。ウクライナ戦争は、イランにとって自国の兵器の有効性をテストする学習実験室となっているとみられている。プーチン大統領はアヤトラ政権に対し、敵のドローンを無力化する電子戦技術に関する情報を提供しており、またウクライナで捕獲した西側の兵器の一部をイランに送ることで、パスダラン軍がそれらを解体し検査できるようにしている。
「カオス・カルテット」で達成される調整と協力のレベルは、不確実な西側と対照的である。この時期、最大の未知の一つは、11月5日のアメリカ大統領選挙に関連している。
| もしトラに備えて媚を売る日本
ヨーロッパでは、ドナルド・トランプ氏の勝利の可能性があり、世論調査でも除外されていない。
このことは、アメリカのNATO離脱への序曲として認識されており、ロシアの欲望に対抗するために大陸を防衛する必要性を強調している。
しかし、その結果は各国によって異なり、イタリアやポーランドは同じように考えていない。また、ハンガリーやイギリスの見解も異なる。
さらに、トランプ氏がアメリカ大統領に再び返り咲く可能性だけを想定するのではなく、中長期的には、誰がホワイトハウスを占めるかに関係なく、米国の関与の低下は避けられないと考えらている。
これは、軍事的に台頭する中国への対抗や、アメリカの財政赤字と公的債務の増大に起因している。
たとえば、トランプ大統領が勝利したとしても、中国では異なる状況が浮かび上がっている。
日本の国境近くでは戦争は起きていないものの、脅威を感じている状況が存在する。中国の軍事的な傲慢が増大している兆候は欧州でも報じられている。
イタリアが報じた内容は、中国政府は最近、太平洋上での大陸間弾道ミサイルの発射実験を実施し、その事実を初めて公に発表した。この発射は、技術的な価値を超えた明確なメッセージを発信するものであり、アメリカとその同盟国の基地を攻撃する可能性を示唆しているということだ。
中国は134発のミサイルを保有しており、240個の核弾頭を搭載できる能力を持つ。また、極超音速ミサイルも開発されているが、アメリカの防衛力はそれに対して効果的ではない。さらに、中国海軍と沿岸警備隊は、米国の歴史的な同盟国であるフィリピンの領海への侵入を進めている。
| イタリアが報じた石破首相のアジア版NATO
イタリアでは、石破氏が首相に就任する前に出版された本の内容に触れ紹介された。
日本では新首相に石破茂氏が就任した。就任直前に出版された本の中で、彼はアメリカと「対等な立場で」同盟を更新することを提案している。これは、日本のナショナリスト派への賛辞としても受け取られる。
日本は主権が限られた「真の独立ではない」国のように見えると述べており、国内に5万5000人の米兵を受け入れ、米軍基地の運営費の75%を支援していることを指摘している。この状況は、いろんな意味でアンバランスな同盟関係を示している。
米国と日本の間の条約では、米国が日本の防衛に介入する義務が定められている。しかし、その逆、すなわち攻撃を受けている米国に対する日本の援助については規定されていない。この非対称性は、NATO内の非対称性よりもさらに大きい。NATOでは第5条がすべての加盟国に適用され、実際に欧州諸国は2001年9月11日以降、米国とともにアフガニスタンに介入する義務を感じていた。経済的には、日本が米国の軍事支出の4分の3を賄っているため、その逆の状況が成り立つことも重要である。
と、石破氏が戦略的軍事的側面から見ると、日本は欧州諸国よりもさらに一方向の保護を享受していると感じていたとイタリアでは捉えられている。
そして、イタリアの記者は、日本のことを「安全保障の寄生虫」と呼んでいる。
「安全保障の寄生虫」・・・。随分な言い方である。
さらに、石破氏が提案するものは、単なる主権の回復にとどまらず、責任の受け入れでもあると、説明を加えていた。
彼は米国との同盟関係をさらに強化したいと考えており、そのためのバランス調整に関するすべての代償を喜んで支払う意向を示している。
ここからは、日本の報道では触れられていない踏み込んだ内容をイタリア側が報じている。イタリア人記者が難解な石破論調の解釈を間違ったのかもしれないが、以下のように大手新聞社は書いている。
石破氏は、日本が自国の領土内にある米軍基地だけでなく、"米国の領土である太平洋のグアム島"についても言及している。彼は、アジア版のNATOを創設することを望んでおり、これには韓国、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドが参加する可能性がある。この枠組みには、NATOの第5条のような相互防衛の規定が含まれ、"日本が米国を守る義務を負うことになる" ことを意味する。石破氏は、アメリカを太平洋における負担から解放するために、非常に具体的で費用のかかる措置を積極的に講じる意向を示している。日本の新首相が米国に送っているメッセージは明確であり、日本は共通の防衛の一部を引き受けることで発言権を高めつつ、アメリカの防衛支出を減少させることを提案している。
と、共通の防衛を推進することで、(仮に)トランプ時期大統領になった場合には、トランプ氏の期待に応えるようなメッセージを発信していることを示しているという。
さらに、もしヨーロッパにおいても共通の防衛体制を築くリーダーシップが日本にあれば、それはNATOを補完する役割を果たし、アメリカの負担を軽減する助けになるだろうと、極東における親西側の同盟が維持される可能性があると、ヨーロッパ側から期待をされている。
石破氏がこのような戦略を採用することは、日本がアメリカとの同盟関係を重視しつつ、地域の安定に貢献しようとしていることを示唆しているとイタリアが報じていた。
石破氏の言う「アジア版NATO」とは、イタリア側からの報道から知り得た内容によると、つまり、「トランプ氏がもしもアメリカ大統領になった場合に、トランプ氏が大変満足する内容のメッセージであり、アメリカの領土である太平洋のグアム島の防衛の一部まで日本の自衛隊が引き受け、アメリカの防衛支出を減少させてあげ、アメリカの負担を軽減するための代償を喜んで日本国が支払うつもりだ」と、石破首相の言う難解な「アジア版NATO」をイタリア側は簡潔に報じた。
少なくとも、欧米からそのように捉えられた(理解された)と考えるべきだ。
現在、日本の自衛隊は米国の領土であるグアム島を直接防衛しているわけではない。グアム島は、アメリカの軍事拠点としての重要性が高く、日本の自衛隊はその周辺地域の安定を維持するための共同訓練や連携を行っている。
しかし、アジア版NATOでは、共同訓練だけにとどまらず、「相互防衛の規定」に規則に沿えば日本の自衛隊は守備範囲を広め、国民は負担を強いられ、そこまでしてでも米国を守らなければならないということだろうか。
アメリカの負担を軽減させてあげるために、トランプ氏が以前要求していたように、日本の国防費をGDPの2%以上に引き上げるつもりなのだろうか。
「アジア版NATO」は、実際には実現可能性が低い構想として評価されることが多い「机上の空論」であると、日本人はすぐにその問題点を容易に想像することはできるが、欧米は地域ごとの政治的背景や歴史的な対立が異なることなどは知られていない。
特に、中国との関係や北朝鮮の問題が複雑化していることや、各国の戦略的利害が一致しないことや、各国の自主性が損なわれることが懸念されることなど、アジア地域の問題は欧州が知ったことでもない。
アジア版NATOが設立されるとすれば、地域の緊張が高まる可能性もある。特に、中国が反発し、軍事的な対抗策を強化するリスクがある。靖国神社参拝以上の挑発とみなされるだろう。
石破首相が発する言葉は、すべて日本の政治的な判断や外交政策だと全世界に発信されてしまうのだから、その発言には慎重であるべきだと筆者は感じた。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie