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ひきりん|ベルギー

ドイツで同性愛者の首相誕生なるか?イェンス・シュパーン保健相 @「ポスト・メルケル」レース

ドイツ・シュパーン保健相 © Olaf Kosinsky, CC BY-SA 3.0 DE

今月初めに『「ポスト・メルケル」ドイツの次期リーダー候補者たち』という記事をお届けしていたが、今回はその続編。この1ヶ月弱で多少状況が見えてくるかと思いきや、「ポスト・メルケル」レースは全く五里霧中のままといった印象だ。

最新の2月26日に発表された公共放送ZDFの最新の世論調査で見ると、与党CDU/CSUの首相候補を本命2人に絞って質問がされていた。一人は、先月1月16日、最大与党キリスト教民主同盟(CDU、現有200議席)の党首選で新党首に選出され、ドイツ経済の牽引役ルール工業地帯を抱える西部ノルトライン=ヴェストファーレン州首相のアルミン・ラシェット氏。もう一人はバイエルン州首相で、南部バイエルン州の地域姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU、現有46議席)党首のマルクス・ゼーダー氏。

連邦議会の議席数から言っても、ラシェット氏が本命なはずなのだが、なんせ国民的人気がない。ゼーダーが支持53%不支持37%に対し、ラシェットは支持28%不支持57%。与党CDU/CSU支持者に限った数字だと、ゼーダー支持74%不支持18%に対し、ラシェットは支持36%不支持55%と、支持も不支持もその差が開いてしまう状況に。

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ダークホース、イェンス・シュパーン保健相

こうした状況下で密かに注目を集めているのが、イェンス・シュパーン Jens Spahn 保健相だ。第4次メルケル政権で最年少で初入閣した若手のホープだ(就任当時37歳)。保健大臣の前は日本の副大臣ポストに相当する財務次官を経験。現在40歳で、世代交代を訴える党内の若手からの支持も厚い(ゼーダー56歳、ラシェット59歳)。ラシェットが温厚で柔らかい話し方をする気さくなおじさんキャラなのとは対照的に、若さが前面に出て鋭くはっきりした発言が多いシュパーン。昨年春のコロナ第1波への対応も評価され、世論調査の「満足する内閣メンバーは?」で一時はメルケル首相を上回り、トップに躍り出たこともあった。10月に自身がコロナ感染したことは殆ど影響はなかったが、12月の第2波拡大時のタイミングでワクチン接種の遅れが生じて急激に国民の不満が高まり、人気を落としていた。

日本の衆院選の制度に比較的近い、小選挙区比例代表併用制を採用するドイツの連邦議会選挙(解散はなし、任期4年)で、イェンス・シュパーンは2002年当時22歳で初当選後、5期連続当選を果たしているが、彼の地元選挙区は大都市を抱える都市部ではなく、小さな町や村が集まった郡部である。特に製造業でドイツ経済を支えるルール工業地帯を抱える西部ノルトライン=ヴェストファーレン州にあって、ケルンやデュッセルドルフなどの大都市ではなく、農村部が地盤だ。彼自身も郡部出身でシティボーイではない。日本で例えると、名古屋市や豊田市のある愛知県において、東三河地方の郡部に相当するイメージか?そんな田舎で育ったイェンスは、この国政に初めて立候補をするタイミングで両親へのカミングアウトを決心。多くの同性愛者と同様に、家族に、特に父親にカミングアウトするには相当な勇気が要ったようだ(結果は恐れるようなことはなかったのだが)。

LGBTには生き辛い保守的な地盤から2位以下に大差を付けて勝ち上がってくるということが、人気と実力があることを物語っている。所属政党CDUにしても現在は宗教色はほぼ無いとは言え、キリスト教民主同盟という名のとおり元々はカトリック政党を起源とする流れを汲む政党であり、支持者の中には敬虔なクリスチャンも多いが、リベラルな他の政党ではなく保守のCDUから立候補しているのも興味深い。実際これまで受けてきたインタビューでは、キリスト教や保守思想とLGBTとの矛盾について問われることも多かったようだ。

保健相としてコロナ対策に尽力する中、昨年5月、同性愛者を治療によって矯正する、所謂「転向療法」の18歳未満の若者に強制することを禁止する法律を議会に提出し、法案を可決させた。ドイツでは年間に数千人単位でこの「転向療法」を受けているとの調査結果が出ており、同性愛者の若者の鬱や自殺を助長している。

Profile

著者プロフィール
ひきりん

ブリュッセル在住ライター。1997年ドイツに渡り海外生活スタート、女性との同棲生活中にゲイであることを自覚、カミングアウトの末に3年間の関係にピリオドを打つ。一旦帰国するも10ヶ月足らずでベルギーへ。2011年に現在の相方と出逢い、15年シビル・ユニオンを経て、18年に同性婚し夫夫(ふうふ)生活を営み中。

ブログ:ヨーロッパ発 日欧ミドルGAYカップルのツレ連れ日記 

Twitter:@hiquirin

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