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ベテラン特派員が綴る中東を混迷に陥れたアメリカの罪
中東が現在の混迷にいたる道筋のうえでアメリカが果たした役割は大きい Khalil Ashawi-REUTERS
ISISをはじめ、イスラム過激派テロリストのニュースをほぼ毎日のように目にする。そして、ソーシャルメディアには、にわかリポーターや評論家が溢れている。だが、歴史的背景を踏まえた上で現状を理解できている人はほぼ皆無ではないだろうか。私自身、1990年にエジプトを旅行した頃から2001年9月11日の同時テロ、イラク戦争、と継続的にニュースを追っているが、いまだにほとんど理解できていない。
中東問題は今始まったことではないし、刻々と変化する。現地に住んでいる人や、取材をしている記者にも見えにくい程、複雑なものだ。
イスラム教、キリスト教、ユダヤ教が崇拝するのは(異論はあるものの)基本的には同じ神だ。しかし、キリスト教による十字軍遠征、オスマン帝国による東欧から地中海の沿岸各国の征服、イスラム諸国でのユダヤ教徒の度重なる大虐殺、イスラエル建国後のアラブ諸国対イスラエルの中東戦争など、同じ神を信じているはずの3つの宗教は、長い歴史のあいだ、絶え間なく争いを続けてきた。
中東の歴史をたどれば、はっきりした犯人と犠牲者はいないし、純粋潔白な宗教や民族もない。イスラム教徒の間でも血みどろの戦いを続けてきたのだから。しかし、国際問題では「~が悪い」という単純な犯人探しを好む人が多い。特に日本では、アメリカを悪者として語る人が、非常に多い。
だが、本当にそんなに単純なことなのだろうか?
アメリカが「何も手を出さない」という選択をしていたら、中東に平和が訪れたのだろうか?
過去20年中東に住み、そこを第二の故郷として愛するアメリカ人記者が、外部の私たちにはとうてい理解できない複雑な過去と現状を、わかりやすく解説しているのが、『And Then All Hell Broke Loose: Two Decades in the Middle East (English Edition)』だ。
リチャード・エンゲルは、スタンフォード大学を卒業した1996年にエジプトに渡ってアラビア語を学び、そのまま中東に残って記者になったという珍しい経歴のアメリカ人だ。当時は、フリーランスとして生計を立てるのがやっとだったが、イラク戦争が危険な状況になったときに現地に残った数少ない記者の1人として一躍アメリカで名前が知られるようになった。その業績が評価されてMSNBCの特派員として正式に中東を拠点にするようになり、反政府運動が政権を打倒したチュニジア、エジプト、リビア......といった「アラブの春」では、流暢なアラビア語を駆使して危険な現場まで潜り込み、シリアでは武装勢力に誘拐されたという壮絶な体験もしている。
エンゲルが説明する中東の近代史は、実にわかりやすい。
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