最新記事
ガザ紛争

安保理ガザ停戦決議「棄権」で亀裂深まる米イスラエル、「全面衝突」回避できるか...双方の思惑は

2024年3月26日(火)21時43分

こうした中で複数の専門家は、当面の課題はバイデン氏とネタニヤフ氏が意見の隔たりを制御可能な範囲にとどめることになると指摘する。

戦略国際問題研究所(CSIS)の中東プログラムディレクター、ジョン・オルターマン氏は、両者の関係に「致命的な打撃」が加わったとみなすべき根拠はなく、対話の扉が全て閉ざされたとは思わないと話した。

ただ米国とイスラエルの間に何の懸案もなかった時期でさえ、互いに険悪になる場面があったバイデン氏とネタニヤフ氏の関係は、今回の米国の棄権で一層亀裂が深まっている。

バイデン氏は今月MSNBCのインタビューで、ラファ攻撃は「超えてはならない一線(レッドライン)」と明言。これに対しネタニヤフ氏は、そうしたバイデン氏の批判には耳を貸さず、ラファ攻撃を断行すると宣言した。

ネタニヤフ氏に対しては、民主党上院トップでユダヤ系のシューマー院内総務でさえ、和平への障害になっており、総選挙で代わりの指導者を選出すべきと苦言を呈し、バイデン氏はこれを「素晴らしい演説」と称賛している。

一方で共和党のジョンソン下院議長は20日、ネタニヤフ氏を米議会に招待して演説してもらうことを考えていると明かした。そうなるとネタニヤフ氏にバイデン政権への不平不満を表明する絶好の場を与えることとなり、バイデン氏にとって打撃になるとみられる。

民主党のホワイトハウス上院議員はロイターに、ネタニヤフ氏は共和党と手を組み、米国とイスラエルの関係を「武器化」して右派勢力に有利なよう情勢へと導こうとしていると述べた。

ただ再選を狙うバイデン氏が選択できる対応策は限られる。共和党に親イスラエルの有権者を取り込む機会を与えないようにしなければならない上に、強力なイスラエル寄りの姿勢に幻滅している民主党左派の支持がこれ以上減るのも阻止する必要があるからだ。

ネタニヤフ氏はと言えば、ガザでの戦闘継続には国内の幅広い支持があることを承知しているので、あえて危険を冒して米国の許容限度を試そうとしているように見える。

イスラエル戦時内閣の閣僚は全員、ハマスを壊滅させて人質が戻ってくるまで戦闘を続けることに賛成で、国際社会で孤立するリスクが高まっていても、米国の要求に応じて強硬姿勢を後退させる気配は乏しい。

極右派のスモトリッチ財務相は、イスラエルは米国のパートナーであって、米国に「庇護」されているわけではないと強調した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中