最新記事
日韓関係

日韓関係に火をつける? 韓国最高裁、徴用工問題で日本企業に賠償命令

2023年12月28日(木)17時30分
佐々木和義

日韓請求権協定の異なる解釈と法的対立

日韓請求権協定は2つの解釈がある。日本政府は協定によって統治時代のすべての請求権問題が解決したという立場である。一方、請求権協定は日韓基本条約の締結交渉で協議した請求権が対象であり、議題に上がらなかった請求権や締結後に発覚した請求権は対象外という主張がある。

日本に加えて韓国政府もたびたび前者の立場を唱えるが、韓国法曹界は後者を採る例がある。ソウル地裁が徴用工訴訟を相次いで却下した21年、相手国には訴求できないという判決のほか、請求権は協定ではなく時効によって消滅したという判決もあった。


慰安婦訴訟

徴用工判決に先立つ12月9日、元慰安婦と遺族16人が日本政府を相手取って損害賠償金の支払いを求めた訴訟で原告の勝訴が確定した。元慰安婦と遺族20人が16年末に提訴したが、日本政府は1965年の日韓請求権協定と15年の慰安婦合意で解決済みであるとし、また国家が外国の裁判権から免除される国家免除の原則を主張して、一切、対応しなかった。

ソウル中央地裁は21年4月、国家免除の原則から韓国の裁判所が日本政府を裁くことはできないとして原告の訴えを却下した。慰安婦らの控訴を受けたソウル高裁は23年11月23日、1人当たり2億ウォンの支払いを命じる判決を下し、無対応を貫く日本政府が期限内に上告しなかったことから、12月9日、高裁判決が確定した。

慰安婦訴訟の進展と日韓両国の対応

日本政府はこれまでの慰安婦訴訟と同様、支払いに応じることはなく、韓国の裁判所が日本政府の財産を差し押さえることも不可能だ。また、韓国政府も元慰安婦に対する弁済等を行う考えはない。外交部が2015年の韓日慰安婦合意を尊重すると繰り返し述べるなど、慰安婦に対する補償は文在寅前政権が解散させた和解・癒やし財団への日本の出資金を充当すべきという考えだ。

徴用工訴訟で確定した賠償金は韓国政府が弁済する。敗訴した日本企業が拠出することはない。慰安婦訴訟も訴えられた日本政府は一切、関与しない。いずれも訴訟も被告となった日本不在で進行し、日本不在で完結する。

現在、最高裁で確定判決を待つ同種訴訟は7件あるという。7件すべてで同様の判決が下されると、財団が支払う弁済金は100億ウォンを超える可能性があるという。訴訟の行方を注意深く見守っているのは、日本政府や日本企業よりむしろ、弁済基金の追加支出を求められる韓国企業なのである。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の発言要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中