最新記事

日韓関係

元徴用工問題、「歴史問題は地雷畑、ユン大統領が無事帰還できるのか」と韓国の反応

2023年3月18日(土)10時45分
佐々木和義

「歴史問題は地雷畑、尹錫悦大統領が無事帰還できるのか」

政府決定を容認する声もある。忠清北道の金栄歓(キム・ヨンファン)知事は「喜んで親日派になろうと思う」と述べて政府を擁護した。韓国の「親日派」は韓国を裏切ったという意味で使われることが多く、共に民主党は金知事の発言を「妄言」と決めつけた。

韓国政府が第三者弁済を発表したとき、米国のバイデン大統領が歓迎の意向を示し、続いて欧州連合(EU)と国連も歓迎を表明している。朝鮮日報は金知事の発言を妄言と批判した共に民主党の目には、国連やEUも親日派に映るらしいと皮肉った。

朝鮮日報はまた、北朝鮮の核問題や中国の覇権主義への対応など日米韓の連携が重要であり、早急な日韓関係改善が必要だとして政府発表を容認する社説を掲載。東亜日報も日韓関係正常化に向けた過程に入ったと、政府決定を容認する論評を出している。

ソウル新聞は原告3人の反対について皆が満足できる解決策は遠いと述べ、日本に「竹槍」で対抗しても未来を開くことはできないと論じている。

中央日報は賛成も反対も述べていないが「韓日の過去史問題に足踏み入れた尹大統領」と題した社説で「歴史問題は地雷畑」と指摘する。慰安婦合意を交わした朴槿恵元大統領は慰安婦問題の扉を開けて重傷を負い、文在寅政権は引き返して扉を閉めた。地雷畑に入った尹錫悦大統領が無事帰還できるのかと論じている。

東亜日報は日本側の反応が残念と指摘しており、反対する国民も第三者弁済そのものより、謝罪や賠償がない日本に有利な決定だと批判するが、あくまで韓国内の問題だ。

第三者弁済の原資は、企業の自発的な寄付金を充てるというが......

日本と韓国は1965年、請求権協定を締結した。日本が韓国に補償金を含んだ経済協力金を支払い、1945年8月15日以前に発生した両国企業や個人の請求権を放棄する協定だ。韓国法曹界は協定によって個人請求権は消滅しないという立場だが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は韓国人の請求権は協定によって韓国政府に帰属するとして、元労働者らに補償金を支払った。また、韓国外交部も2009年、統治時代の未払い賃金は日本から受け取った協力金に含まれるという見解を示している。

韓国政府が請求権協定とその内容を国民に公開したのは2009年で、日本から受け取った協力金をインフラ整備に充てていた。

韓国政府は第三者弁済の原資は、企業の自発的な寄付金を充てるというが、鉄鋼大手のポスコや公企業の韓国道路公社、鉄道公社、韓国電力公社など、請求権協定の恩恵を受けた16社の拠出が中心になると政府関係者は話している。

ポスコは経済協力金を原資とする政府支援を受けており、鉄道公社などは日本が放棄した資産を受け継いだほか、ODAも投入された公企業だ。韓国政府は第三者弁済と表現するが、是正と見ることもできそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ガザ「大量虐殺」と見なさず ラファ侵攻は誤り=

ワールド

トルコ・ギリシャ首脳が会談、ハマス巡る見解は不一致

ワールド

ロシア軍、北東部ハリコフで地上攻勢強化 戦線拡大

ビジネス

中国、大きく反発も 米が計画の関税措置に=イエレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中